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第38話

「帰るよ。あきくんに我慢させてまで泊まるの、違うじゃん」 困らせたくないから、物分りのいい よいこの俺は帰宅の途を辿るんです。 「えっと……、僕は十碧が泊まっていくものとばかり…」 「だって、困るのあきくんじゃん」 「困りは…しないんだけど…」 なんだよもう、ハッキリしないな。 美形が優柔不断な態度取ってると、変なストーカーとか簡単についちゃうんだぞ。 「母さんにも、ごはん食べたら帰るって連絡入れちゃったもん」 それはまあ、やっぱり泊まるって連絡し直せば済むだけの話だけどさ。 あきくんは少し目を泳がせて何か考えてるようだったけど、俺のジャケットを軽く掴んで羽織るのを阻止すると、 やがて視線を俺へと向けて、落ち着けた。 「十碧」 「?……はい」 真っ直ぐな視線に捉えられる。 美形の視線、独り占め。…てか!美形の眼力ハンパないっ! 後頭部まで射抜かれそうなんですけど俺っっ…! 「今、十碧に帰られると淋しいから、──泊まっていってください」 「………はい」 「よかった……」 ホッとしたように目を細めるあきくんに、いつの間にか緊張してた体の力がガクンと抜けた。 いやいやいや、俺が泊まるって言って、先に困ってたの あきくんだからね?! なんで俺が引き留められる形にすり替わってんだよ!? 帰るって言ったらホッとするのが正解だから!! 驚きを隠せない俺を余所に、なんでかルンルンで 回収した俺のジャケを再びハンガーに掛け直してるあきくん。 なんだかかわいい。…けど謎!マジで謎!! 「えっと……、俺、あきくんの部屋に泊まっていいの?」 「うん。十碧はベッドを使ってね」 「ふわっ…?!」 あきくんのベッド!美形のベッド!! 毛布一つであんな良い匂いすんだもん。ベッドなんて言ったら、もう楽園の花畑じゃん!ヴァルハラじゃん!! はっ!あきくんって、シャンプーとかボディソープとか何使ってんだろ? 美形専用の芳香纏える系の、なんかスッゲーイイやつなのかな? 入浴剤もきっと、花びらが浮いちゃってるようなオシャレなやつなんだろうな……。 やっば!バスタイムめっちゃ楽しみになってきたぁっ!!

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