59 / 120
第59話
あきくんの次の投球は、今度はちゃんと前に向かっていった。
でも、慎重に置きに行くもんだからゆっくりと転がった球は途中で勢いを失い横に逸れ……
「あっ…!」
コロコロコロ……ストン───ゴロゴロ……
ヤバい……、あきくんがガーター出すとかマジ萌える。
写真に収めておきたい。いや、投げるトコから動画に撮っときたい!!
絶対嫌がるだろうから出来ないけど。
あきくんは耳まで赤くなった顔を隠すように変な方向に向けたまま戻ってくると、何も言わずに俺の隣にストンと腰を下ろした。
恥ずかしかったんだね!?
うん、わかります!俺にかっこいいトコ見せたかったんだよね、ほんとは!
でも、かわいいあきくんだって滅茶苦茶ウエルカムだよぅっ!
ああっ、もーだーえーる~~っ!!
「七瀬、座ってるとこなんだけど、もう一投残ってるよ。さっきの後ろ向きはカウントされなかったから」
「ゔっ……。もう投げたくない……」
「そんなこと言わないの。ほら、行っておいで」
堂上先輩に球を渡されて渋々指を入れたあきくんは、もうヤケクソって感じでボールを放る。
最初の完璧な美しさには程遠いフォームだけど、幾らか慣れたのかちゃんと前に飛んだそれはゴロゴロとレーンの中央を転がり、ど真ん中を穿いて7本のピンを倒した。
「堂上!真ん中に行った!」
「ああ。上出来」
ヤバい……、あきくん with 堂上先輩、可愛すぎる!衝撃的に萌える!!
もっとあきくんの可愛いとこ引き出して下さい、堂上様っっ!!
俺がキュンキュン萌え悶てる間に、ハッシーはとっとと投げ終えてたらしい。
「無難だな」
1投目6本からのスペア。
確かにストライクじゃないけどさ、結局全部倒してるし。
そんで無難とか言っちゃうハッシーは、やっぱり器用な優等生なんだなぁと思う。
で、次は俺の番。
得意じゃないけど苦手でもない。投げれば大概2投で5~9本倒れる。
甘いなハッシー。無難ってのはこういう事を言うのだよ、フハハハ……ちぇっ、4本か。
2投目もおんなじトコに投げちゃった。
続いての怜は、女性や子供が使う一番小さな球を重たそうに「よいしょっ」って持ち上げて投球位置へ向かう。
「怜ちーん、可愛い~!」
応援の掛け声がおかしいし、怜を見てるシノの顔が超緩んでて超きっしょい!
んだけど…、俺もシノと同じこと考えてた。なんたる屈辱…っ。
でも、怜が可愛いのは自然の摂理(?)だからしょーがない。
怜が「えいっ」と両手で投げた…いや、ほぼ置いた球はゆっくりとレーンを転がり………
コロンコロン、と端っこのピンを数本倒すとガーターの溝へと落ちていった。
なんか、そうなんだよね。毎回。
何故か、ギリギリまで保つんだよ、軌道は完全にガーター目指してんのに。
んで、ちろっと倒して、2投目は逆をまたちろっと倒すから、真ん中だけが残るっていう。
続いての月都は、言わずもがな。
「……十碧、その諦めの境地みたいな顔…」
「うん?……ツキトガンバッテ」
「片言やめてっ!」
タンッ、コロコロコロ……ストン、スィー……
「ほらね」
「“ほらね”もヤダってばぁっ」
次はシノ。
コイツがまた、ムダにボーリングが上手い。同居のお祖父ちゃんがセミプロで、子供の頃よく連れて来られて遊んでたらしい。
案の定、するっとストライク出しやがった。
「シノってほんとムダにスポーツ万能だよね。見た目だけはムダに良いし」
「えっ、俺トアに褒められてる!?」
「は?まさか」
「十碧がシノくん褒めるなんて、そんなこと天地がひっくり返ってもあり得ないよ!」
月都、それは俺に対して失礼だ。
「ムダにって言われてるでしょ、ライちゃん」
「本当に無駄にポジティブだな、来生は」
「なんか俺、猛攻撃されてない!?」
「なに驚いてんの。それがシノでしょ」
「!! うっそ!えっ、もしかしてトア、俺のこと嫌いなの?!」
「…シノ、ヒドイ……。なんでそんなこと言うの?嫌いなわけないじゃんっ。 俺、シノのこと……すきだよ。信じてくれる?」
「ふぉあぁっっ!キタコレ!貴重なトアちんのデレ発動したあっ!!」
「あ~っ!とあ相手に赤くなってる~!ライちゃんの浮気者っ!」
「はっ!?ちがっ…!違うからね怜ちん!俺は怜ちん一筋だからっ!!」
「はっはっはっ、ばかめ、フラれちまえー」
「トア?! なんでそういう事すんの~~!?」
「え?ごめん。ちょっと面白いから以外に理由が思い付かない」
「トアアァッッ!!」
さあ、シノで充分遊んだ後は、堂上先輩の順番か。
この人もまた、なんでもスマートに完璧に熟しちゃいそうなイメージだよね。元生徒会長だし。
ともだちにシェアしよう!