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第2話

『いいかい、絶対に粗相をしてはならないよ。お前は何をされてもただ黙って頷くんだ。それぐらいなら出来損ないのお前でも出来るだろう? 分かったね?』 真新しい制服に身を包んだ空川ましろは、もう何度となく聞かされた祖父母の言葉にただ頷いた。そのかけられた言葉がどんなに酷い内容でも、反抗などしない。 ただ言われたから頷く。 頷かなければ打たれるから、ましろは震えそうになる体を必死に押さえつけて、機械的に頷いたのだった。 この世界は、元は人間という種族が主となり生活をしていたのだと、ましろは中学時代に社会の勉強で習った。 しかし激変した少子化に、環境汚染の悪化。 自然はやがて息を閉ざし、荒廃した土地が続いた。 絶滅していく多くの種族のひとつに、人間も含まれていた。 しかし現在のましろが暮らす世界を基盤に導いた人類は、ただ淘汰されることを望まなかった。 人間は絶滅を阻止するべく数多の動物達と融合し、やがて獣人へと進化を果たしたのだ。 それから数百年と時が経ち、ましろが暮らすこの世界は再び平穏を取り戻していた。 しかしこの世界に純粋な人間は存在しない。 淘汰されることを恐れた人間は獣の遺伝子を借り、新しい種族──獣人として新しい時代を切り開いた。 男も女も関係なく、妊娠が可能になった世界では、昔とは一変し一夫多妻といった風潮がある。 皆が皆、それを好む訳ではないがウィーク──弱き者──と差別化される力のない草食動物を始祖とした獣人たちは、愛妾となるものが多かった。 肉食動物を始祖とする獣人達が頂点に立つのも自然と言えるのだろう。 いつの時代も弱肉強食である。 そして兎の獣人であるましろもまた、今日からそのひとつの生贄になることをどこか遠くの物語のように考えていた。

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