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第4話

今日からましろの世界にもなりうる桜陽学園を目前にし、細い足は情けなく動きを止めていた。 整然と立ち並ぶ豊かな木々に囲まれた校舎は、ましろの育った古い家とは違い豪奢で映画の世界にでも存在する城のようだ。 人の背よりも遥かに高い門は砦のようで、この場に相応しくないと思っているましろには自分を拒むかのように思えてしまう。 校門から真っ直ぐ歩いた先には噴水があり、ましろの焦燥とは正反対に暖かな光を受けキラキラと水飛沫をあげていた。 まるで、新入生を祝福し迎えているかのように。 穏やかながらも気品のある雰囲気に、ましろは美しい外観に感動するよりも息が詰まりそうだと思った。 有名子息が集まる桜陽学園ではましろと同じ草食動物を始祖とする者達が通うことは稀である。 世界のヒエラルキーの頂点が肉食獣動物となるように、この桜陽学園に通う御曹司のほぼ九割が毎年肉食動物の始祖を持つ子息たちだからだ。 そして多くの者達は幼い頃から桜陽学園に入学し、幼稚舎から大学までとエスカレーター制で進級する。 高等部から外部入学してくるものは少なくはないが、やはりそれでも、ましろの存在は目立っていた。 競い合うように内面のみならず、自らをも磨きあげている彼らたちは、ましろの目にはキラキラと輝いている。 その一方、小柄な上に華奢なましろは異質だ。 風に吹かれれば今にも消えてしまいそうな自分の姿を省みて、ましろはいたたまれない思いにかられた。 今すぐこの場を逃げ出したい。 だが、そんなことをすれば祖父母にどんな仕打ちをされるか分からない。 ぶわりと総毛立つ恐怖がましろの身を襲う。 意識が飛びそうなほど怯えていたましろだったが奥歯を噛みめて恐怖を押し殺すと、重い足取りで歩きだした。

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