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第5話

「君、本当にここの新入生なのかい? それにしてはみすぼらしい姿だね」 校門をくぐろうとしたましろを足止めしたのは、神経質そうな面差しに皮肉な嘲笑を浮かべた背の高い青年だった。 その手には籠が持たれていて、中には薄ピンク色の花が幾つも折り重なっていた。 一人一人に花のコサージュを配っていた青年達は恐らくこの学園の生徒であり、上級生なのだろう。 ましろと離れた場所では「おめでとう」と暖かな会話のやりとりがなされている。 目の前の上級生も同じく祝いの言葉を先程まで前にいた生徒にかけていた。 しかしましろに対しては不躾な目線を送り意地の悪い言葉を投げかけてくる。 足止めをされた挙句、不審者ではないかと猜疑の目を向けられたましろは周囲の注目を浴びてますます顔を俯かせてしまった。 「……今年、入学しました。空井ましろです」 「え? もっと大きな声で話してくれないか。そもそも君はどこのハーフなんだい? なんだか匂いも薄いし……まるでインルみたいだな」 「ッ」 「まあインルみたいな低俗で、出来損ないのやつらがここに入学出来るわけが無いけど」 矢継ぎ早に繰り出される質問にましろは気後れしてしまう。 その中で発された「インル」という名前にましろの小さな体はビクリと震え上がった。 しかし、はなから返事など求めていないのであろう。 上級生は話に夢中で、ましろの反応には気づかない。 そのことに安堵し、ましろは小さく細く詰めていた息を吐いた。 「それにしたって君、もう少しその身なりをなんとかしようとは思わないのかい?」 「あ、や……」 「その前髪だって鬱陶しいだろ」 「っひ、やめ、やめてくださいっ」 不意に伸ばされた大きな手が、ましろの前髪に触れようとする。 その瞬間、ましろは小さな口をわなわなと震わせか細い声で反抗を口にした。 それは咄嗟に出てしまったものだったが、目の前の上級生の琴線に触れてしまったようだ。 こちらを見下ろす瞳に怒りの色が濃く滲む。 「なっ、失礼なやつだな……俺がわざわざ指導してやってるのに! そもそも門の前にいる時からお前にコサージュを渡すのは嫌だって煙たがられていたんだぞッ! それでも俺は優しく声をかけて、あまつさえ相手にしてやったっていうのに……やめろだと!? この俺に対して! どの口がそんな偉そうな言葉を言っているんだッ」 「あ」 みるみると怒りに肌が赤く染まる。唾を飛ばす勢いで怒鳴り、ましろを責めあげた。激昂する相手をましろはぼんやりと見上げていた。 怒りに燃えるその手が青空へと伸び上がる。そして勢いをつけ、ましろの頬へと振り落とされるのを傍観者のように無表情で受け入れた──その時だった。 「何をしているのかなぁ」 背後から伸びた手が頬を打つ寸前の手首をひねりあげる。 軽やかでいて優しさに溢れた温かい声の主は、ましろを背後からそっと抱きしめ、大きな背中へと小さなましろを隠して庇った。 「上級生が新入生をいじめるだなんて、それこそこの桜陽学園に相応しくないだろ。インルだと差別することだって、全くくだらないことだよ。そんなこと、いちいちこの僕に言わせないでくれないか。子供でも分かることだよ? 弱きものを虐めるなど、愚者のすることだってね」 しかし頭上から聞こえたその声は、口調も優しく丁寧だと言うのに、凛とした響きを感じる力強いものだった。

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