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第8話
「……今度は泣きそうな顔だね」
「え?」
頭上から聞こえた言葉にましろは首を傾げた。
目の下まで伸びた前髪越しに、翼の綺麗な瞳が見える。
陽の光を受けた翠はキラキラと穏やか輝きをもってましろを切なげに見つめていた。
「ましろ君、何かあったら俺を頼ってね。生徒会長だから結構ずるいこともできちゃうんだよ」
「ずるいこと……」
「そう、何か困ったことがあったら遠慮なく言って。必ず力になるから」
そう言ってくれた翼の声は優しいものだった。
優しさだけではなくて、どこか強さを含んだ凛とした声音。
翼の態度に悪意がないことを、本能的に感じ取っていたましろは今のこの状況が不思議で、そして不安で堪らなかった。
優しさに触れたことのないましろは戸惑う。
「なんで僕に」
「おい、勝手にうろつくな。探す手間をかけさせるんじゃねえよ」
浮かんだ疑問を言葉にする途中で、低くて重い声がましろを遮った。
「昴琉?!」
「さっさと来い。式の準備に駆り出されるだろうが」
隣に座る翼がぎょっと身を竦めたのが分かった。
翼を呼びに来たその人は淡白で気だるげな口調だ。
しかしそこには、周りのすべてを従わせてしまうほどの不思議な力があった。
「……っ」
その声の主を見てしまったましろは、翼よりも身を強ばらせて身を震わせた。
今、目の前に存在する彼は──王だ。
血の気を失った頬に、冷や汗がつたい落ちた。
目をそらしたいのに叶わない。
ましろは金色に暗く輝く双眸を見あげ確信していた。
彼は強者だと。フォークと呼ばれるヒエラルキーの上の者。
ウィーク──弱き者──と呼ばれる自分たちとは違う、ヒエラルキーの頂点に君臨する選ばれし獣人だときづいた。
そして目の前に立つ彼こそが、ましろの目的である人物ということに絶望していた。
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