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第9話

入学式を終えたましろの意識は、彼に出会ってからぼんやりと宙を彷徨っていた。 目を閉じれば、彼の姿が脳裏に浮かぶ。 フォークである彼──鳳条昴琉という存在はそれほどの衝撃をましろに与えていた。 そこに立っているだけで全てを従えてしまうほどの絶対的なオーラを持つ昴琉は見目も大変美しかった。 透けるように輝く金色の髪に、暗く獲物を狙う射るような同色の瞳。 切れ長だがやや目尻のさがった目元に、鼻筋の通った高い鼻。 美麗な顔立ちはくっきりとしていて、西洋人に造りが似ていた。 背も高くバランスのとれた筋肉に長い手足。 低くて気だるげな声音は胸を震わせる重低音で、まるで物語の中に存在する王子が目の前に現れたかのように感動してしまう。 自分には無い全てを持った同じ年頃の青年に、ましろは胸が高鳴るのを止められなかった。 ましてやそんな手の届かないであろう人が、ましろが愛人として嫁ぐことになった相手だとは夢にも思わなかったのだ。 物思いにふけながらも探していた部屋を見つけたましろは、一度深呼吸をすると握りしめた鍵を差し込んだ。 桜陽学園は全寮制のため、ましろも今日から二人一室のこの部屋で一年間を過ごす。 三年に上がると一人部屋になるのだが、二年までは二人一室と決められていた。 誰かと共に生活することに耐えられるのか。ましろの不安は大きな扉を前にして膨れ上がる。 どうか、優しい同級生でありますように。 ましろは緊張に震える手でドアノブをひねると、玄関へと足を踏み入れた。

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