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第10話
玄関には、ましろのものではない革靴が綺麗に揃った状態で端に置かれている。
既に同室者が中にいると知り、ましろは肩を落とした。
真っ直ぐに伸びた廊下の先に、磨りガラスの扉がある。
その中に同室者がいると知ったましろはもじもじとして、落ち着きを無くした。
なんて声をかけよう。
まずは挨拶だ。
初めましてと言って名前を名乗ろう。
それから、ええと……。
頭を悩ませながら、ましろの心は萎んでいく。
挨拶を交わすだけの事なのに、どうしてこんなにも緊張してしまうのか。
当たり前のことをこなせない。
そんな自分に嫌気がさす。
だから家族にさえも売られてしまうのだ。
ましろの頭の中が黒い考えでいっぱいになりかけたとき、目前の扉が中から開かれた。
突然のことにましろは驚いてしまう。
中から出てきた同室者は、ましろを目にすると胡乱気に目を細めた。
ましろの身なりを見て身分の低いものとでも判断したのだろう。不躾に全身をジロジロと見るなり嘲るように鼻で笑った。
「あ、あの……なにかついてますか?」
沈黙に耐えられず思わず出た台詞だった。
お陰でじとりとした視線からは逃れられたが、代わりに睨めつけられてしまう。
悪気はなかったものの、同室者の纏う雰囲気が刺々しくなったのを肌で感じて、また落ち込んだ。
「ちっ。いつまでもそこに突っ立ってんなよ。さっさとルールとか決めたいんだからさ」
「す、すみません」
興醒めだと言わんばかりに嘆息すると同室者はさっさとリビングへと入ってしまう。
ましろは悪態をつく同級生に反抗することも無く後を追いかけた。
リビングは品の良い貴重品が必要最低限に揃っており、想像していたよりも広かった。
リビングだけでも、ましろが過ごしていたかび臭い小屋の倍もあるだろう。
今日からこの2LDKの部屋で生活していくことに、ちょっとばかし胸が弾み、ドキドキした。
だが、同室者がすかさず嫌味を言う。
「ったくまさかお前が俺の同室者になるとか俺は最悪だ。ジメジメして汚ぇし」
「……」
見た目についてはどうしようもない。
ヒエラルキーの高いものほど見目もよく美しいのだ。
それにしたって確かに自分の出で立ちは嫌悪されるものかもしれない。
普通であれば平凡で少々不潔な少年だろう。
しかしこの学園では異質であり、異常者であることをほんの数時間でましろは痛感していた。
だが同室者は口を閉じることはせず、これでもかとましろを貶したあとに最後の爆弾を放った。
「……なあお前さ、そんな風に生きてて楽しいのかよ?」
震えるましろを打ちのめすには、その言葉は大きすぎるほどの刃だった。
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