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「いや!!」 寝室から御木本の悲痛な叫びが聞こえる… 「御木本くん…大丈夫かな…」 「信頼してた人からあんな目に遭わされたなら…精神的にはきついかもしれない…」 「離して!!離せ!!」 「瑞季くん。待って。落ち着いて」 母さんの冷静な声が響く… 「蒼!!ちょっと来て」 「蒼…」 「行ってくる。お前はここにいろ」 首肯く藍を確認して部屋に向かった 「御木。大丈夫だよ」 母さんに促され御木本を抱き締めた 「蒼…蒼…っく…ごめんなさい…ごめんなさい…」 「怖かったな…偉かったな…」 暫くするとまた御木は眠ってしまった…こんな状態じゃ家に帰せない… リビングで待つ藍の元へ向かう 「御木本くんは?」 「また眠ったよ…」 「ねぇ…二人とも…少しだけ話してもいいかな?」 「はい」 「藍瑠くんには悪いんだけれど…蒼人を…瑞季くんにくれない?」 「え?」 「…俺が言うことじゃないのはわかってる…凄く最低だってわかってるんだけど…藍瑠くんは…蒼のこと好きでしょ?…恋愛的な意味で…」 「…え?」 藍の顔がみるみる曇っていく…まさか… 「ほんとに…?」 ついに泣き出してしまった藍を眺める。全く気付かなかった… 「えっ、と…え?」 「だから俺は最低だって言ったでしょ?藍瑠くんは蒼に明かすつもりなんてなかったよね…ごめんね。でもね…君なら気付いてると思うけど…瑞季くんも…同じ気持ちを蒼に持ってる。そうだよね?」 「…」 黙って首肯く藍。 「今の瑞季くんには…どうしても蒼が必要なんだ…蒼じゃないと…あの子は普通でいられない…信頼していた人の裏切りが深く傷を付けた…彼を戻せるのは今のところ蒼だけなんだ…だから…蒼をくれない?」 「そしたら…御木本くんは…元気になる?」 「おそらく…」 「わかった…大丈夫…いいよ…俺は…耐えられるから…我慢するの得意だから…」 「ちょっと!あんまりじゃない?母さん」 藍の顔が苦しそうで見ていられない… 「瑞季くんを死なせるわけには行かない…あのまま蒼が側にいてくれないと…彼はその道を選ぶ…今の精神状態では確実にそうなる。見殺しにする?それでもいい?」 「それは…っ…」 「蒼は今のところ藍瑠くんにも瑞季くんにもそんな気持ちはないでしょ?」 「…」 そう…母の言った通り…そんな気持ちなんて微塵もなくて…何も言い返せなかった… 「瑞季くんが落ち着くまででいい。それでいいから…側にいて…これまでより近い距離で。支えてあげて。」 「蒼…御木本くんを助けて…蒼じゃなきゃダメなの俺でもわかるから。ね?俺にはいつも通りでいいからさ」 戸惑いながら頷くしかなくて…藍からの想いは受け取れないし…御木のことも…でも見殺しにするわけにはいかないから…

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