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「綺麗な人たち…」 両親に指定され席につくと空雅がこの言葉を発する 少し笑えた。だいたいの人は二人に会わせたらこの反応をする。 自慢じゃないけど俺の両親は一般の人とは思えないくらい綺麗な顔立ちをしている。たぶん俺の仕事仲間の顔が良いとされている人よりこの人たちの方が綺麗だ。 まぁ…母は無自覚だけど…父とは幼馴染みだったから幼い頃から父ばかりが誉められていて本人もそう思っていたからまさか自分もそう言われているなんて思ったことがなかったのだろう。 一言発した後固まったままの空雅。これもよく見る光景だ。 「空雅?どうしたの?」 「あ…えっと…綺麗すぎて…ビックリしちゃった。若いし」 やっぱりそうだろうね。 「あぁ。こう見えてこの人たち結構年いってるよ。母親なんかは七人生んでるし」 「えぇ!!見えない!!」 見えないだろうねぇ。俺には兄と姉。そして下には弟と妹たちがいる。でも母は全く老けなくて息子である俺も驚くくらいだから 「あははっ!ありがとう。空雅君だよね。ほら座って。ね?」 社交辞令だと思っているであろう母の笑顔に空雅は息を飲んだ。それに父も苦笑してる。父は母の無自覚さに昔から苦労してきてるらしい。 「失礼します」 「ふふ…そんなに固くならないでいいのに。取って食ったりしねぇから」 緊張もするでしょうよ…あんたの笑顔は凶器ですから…ほんとに…自覚してほしい… 「はい」 浅く掛けた空雅に父がふっと呟く 「かわいい…」 父は可愛いものが好きだ。空雅は小柄で色白。クリクリした目はキラキラしてて小動物みたいに可愛いから。あまりにも父がにこにこしながら見つめ続けるからなんとなく苛立って 「親父…そんな目でみんな。ばか」 そう伝えると父は綺麗な顔を膨らませて言い返してくる 「何だよ!それ。可愛いから可愛いって言っただけじゃん!!」 出た…見た目と全く違うガキ臭い物言い。昔はこんなんじゃなかったって母は言ってたんだけど…母や気を許した友人以外にはそれはそれはお手本のような返し方をしていたらしいのに母と結婚してからはその完璧の仮面を被る必要がなくなってからの今だ… 「ほらぁ!空雅君ビックリしちゃったでしょ!茜。子供みたいなこと言わないでよ!」 「だってぇ!萌葱が…」 「煩い!もう黙ってて!!ごめんね。空雅くん。茜は見た目と中身なんかうまく噛み合ってなくて…」 「あははっ!!仲が良くて羨ましいです…ふふっ!」 空雅が一杯の笑顔を浮かべた。可愛い…少し緊張も解れたのか少し顔付きが柔らかくなった。それにほっとする。こういうとき父のアホな表情が助かってる 「よかった。緊張とれた?」 「あ。はい。ありがとうございます」 「改めて。俺が萌葱の母?だよ。男だから母でいいのかわかんないけど…さなえです。よろしくね。こっちが茜」 「よろしくね。空雅君」 「えと…空雅です。今萌葱くんとルームシェアさせてもらっています」 ルームシェア?おそらく母たちが俺たちの関係を知らないと思って気を使ってくれたのだろう。こういうところも大好きだ。でもね…。 「ルームシェアって!!もう!空雅。俺の恋人でしょ?同棲してるの」 「え…と…ははっ…」 複雑そうな顔をして笑う空雅に違和感を覚えた 「大丈夫だよ。俺たち偏見ないし。俺たちがこれだしね。萌葱からね空雅君のこと聞いてたの。同い年の子ですごく可愛いくてお料理も得意なんだって」 「えぇ。料理は好きです」 「萌葱好き嫌い多いから大変でしょ?俺も結構悩んだよぉ」 「そうでもないです。いつも残さず食べてくれますよ」 「おぉ!萌葱!大人になったなぁ」 「いつまでも子供じゃねぇし…空雅の飯うまいし」 「よかったね。本当はね…すごく心配してた…萌葱さ…緋色のこと…好きだったでしょ?恋愛的な意味で…」 「は?…え…知ってた…の…?」 うそ…ばれてた…うまく隠せていると…そうずっと思ってたのに… 胸にズシンとおもりが落ちてきたみたいに苦しくなる…

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