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俺が落ち着いてから店を後にした俺たちは久しぶりの実家に来ていた。
他の兄弟たちも揃っていた
「お帰り。緋色。萌葱」
蒼にぃが柔らかく笑いながら迎えてくれた
「「ただいま」」
「おかえり。」
「紅ねぇ…」
紅ねぇはポンポンと頭を撫でてくれ
「ひぃくんもえくん」
「久しぶり…翠。杏子…それと…初めまして…紅紫(こうし)…真朱(まそう)」
まだ会ったことのなかったまだ幼い一番下の双子たちをそっと撫でながら緋色が呟く
「取り敢えずみんな座って。話がある」
母の声掛けに皆おとなしくしたがってそれぞれ座った。
俺の隣には緋色がいてテーブルの下でキュッと手を握ってくれた
母がお茶を淹れて座ると父が顔をあげた。
「蒼と紅には話したが…」
「…」
「翠。杏子。お前たちには恋人がいるでしょう?」
「いるよ。」
「うん。そういう関係なんだ…この二人は」
「は?気持ち悪いんだけど」
杏子が苦々しそうに俺たちを睨み付けた
「何考えてるの?二人とも兄弟なのに。そんなのあっちゃだめでしょ!話になんない。私部屋に戻る」
「杏子。待ちなさい」
「いやよ!!こんな気持ち悪い人たちと同じ空気なんて吸いたくない!!」
「杏子。待って。ちゃんと話聞いて」
翠が落ち着いた声で杏子に語り掛けるとおとなしく戻ってきた
昔から杏子は翠の言うことなら素直に聞いてきた
「ひぃくん。もえくん。本当なの?」
「うん」
「ねぇ!おかしいって!!やめなよ!!そんなの誰も喜ばないじゃん!!」
「杏子。黙って…」
「…っ…」
涙を必死にこらえながら杏子は俯いた
「世間の目は思うよりも冷たい。杏子の考えの人が多数。これが現実。でもこればかりはどうしようもない。人の思いは誰にも操作はできない。俺たちはみんなに一番愛する人と共に生き幸せになって欲しいんだ。だから俺たちは二人を認めようと思う」
「いやだ!!そんなの!!回りに何されるかわかったもんじゃないじゃない!!」
「…だから…世間にこれが知られる前に俺は萌葱をつれて向こうへ行こうとそう決めている」
帰ってくるまでに色々話した。俺達が一緒にいられるための近道のこと。
そして出たのは俺が仕事を辞め緋色の住む異国の地へいくと言う結論だった
勿論今入っている仕事は全て終えてからにはなるのだがここにいれば誰にいつみられるかわからない。
少なくともここよりは向こうにいった方がきっと騒がれないで済むし杏子にも迷惑にはならないと思う。
杏子がそういうのに嫌悪感を持っているのはなんとなくわかっていたから。
「…ここにはもう戻らないってこと?」
「そうなるな。」
「…わかった…」
「ちょっと!!翠!!」
「杏子…ひぃくんともえくんのこと大好きでしょ」
「…っ」
「だったら俺は二人に幸せになって欲しい。俺には2人の気持ちを理解するのは難しいけれど…でもやっぱり二人は一緒でないとしっくり来ない気がしてたんだ…2人の本当の笑顔をみたのはいつだった?俺はテレビで笑う偽物のもえくんだけしか暫く見てない…ひいくんもそう。張り付けた偽物の笑顔しか見てない…俺の記憶が正しければ2人が本当に笑ってたのは高校の時までだった。回りは偽物な笑顔なんて気が付いていないけど俺たちは家族だよ。気づいていたでしょ?杏子だって」
「…でも…やっぱりおかしいよぉ…どうして?何で?2人は私の自慢のお兄ちゃんだったのに…どうして?…」
耐えきれなくなった杏子がぽろぽろと涙をこぼした
「どうして?どうしてわざわざ難しい道を選んでしまうの?どうして世間に認められない相手を選ぶの? 回りに認められない関係なんて…そんなの苦しくないの?ねぇ?本当に本物の笑顔を取り戻すことはできるの?ねぇ?ねぇ!!」
「杏子…ありがと…でもね、俺は萌葱とじゃないと息がうまく出来ない…心から笑えない…萌葱じゃないとダメなんだ…」
「…俺も…緋色の隣にいたい…寄り添って一緒に死ぬまで生きていきたい…理解してとは言わないし賛成してとも言わない…でも俺にはどうしても緋色が必要なんだ…ごめんね…杏子…泣かせてごめんね…傷付けてごめんね…自慢の兄のままでいられなくて…ごめん…」
「…ばかじゃないの!!2人ともモテるくせにわざわざそんな…もう!!ばか!!ばかよ!!」
「そうだね。俺たちはバカだ…でも…ごめん…この気持ちは止められない」
「勝手にすれば!!幸せにならなければ許さないんだからね!!ばーか!!ばーか!!」
そういいながら俺達の間に入り込み俺たちを抱き締める小さな杏子の体を2人でそっと抱き締める
「「ごめんね…ありがとう…杏子」」
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