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俺が俺でなくなる 茜side
さなえがいなくなって半年。
手掛かりは相変わらず見つからなくて
でもそんなときやっとさなえの母親の家がわかった
あるマンションの一室。
そして俺は今部屋の前に来ている
インターホンを押して待つとガタイのいい男が出てきた
「あれ?茜くん」
「何で俺のことを知ってるんですか?」
「さなえくん見つけていたときに君のことも調べたから」
「さなえはいますか?」
「いるよ」
「返して下さい」
「ん~俺はいいけど…さなえくんがどうかな?」
「は?」
「おとうさん。だぁれ?」
舌足らずな話し方。さなえとは大違いだが聞き間違えるはずもない紛れもないさなえの声
男の後ろからひょこっと顔を出したさなえを見て声をかける
「こんにちは。あなたは誰?」
言っている意味がわからなかった
「さなえ?」
「ん?」
「迎えにきたよ。待たせてごめんね。かえろ」
そう手を伸ばしたけれどさなえは怯え震えて男の後ろに隠れてしまう
「さなえ…」
「僕のお家はここです。おとうさんもおかあさんも知らない人についてっちゃダメっていいました」
「ごめんね?茜くん。そういうことだから帰ってくれる?」
目の前でドアが閉まる、俺は動けないでいた。
玄関の前にどれだけうずくまっていたのだろう。
しばらくするとさなえの甘ったるい喘ぎ声が響く…わざとだ…浴室の窓を開けてこちらに視線を送り俺を見て男が笑った…
さなえの姿は見えないが嫌がっているわけではない。
間違いなくさなえ自身が男を求めている…そんな声だった
逃げるようにそこをあとにした
行く宛もなくただ彷徨って…どこかの公園についた
「さなえ…」
さなえの記憶に俺がいなくなっている…
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