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いじわる彼氏とバレンタイン ①
正和が仕事に出かけてから二時間。ソファで膝を抱えた純は、本当なら今日はデートするはずだったのに、と拗ねた様子だった。そんな純がふとテーブルに目を向けると、見慣れない箱が置いてあって小首を傾げる。
「チョコ……?」
昨日はバレンタインデーだったから、正和が誰かからもらってきたのだろうか。純はおもむろにソファから立ち上がり、一度開けた形跡のあるソレをそっと開ける。
「うわぁ……」
なんだか本命っぽいお洒落な箱で、中には上品な包み紙で包装されたものが十粒並んでいた。高そうな雰囲気のソレは随分と気合いが入っている。どんな子からもらったんだろう、と一粒手に取って、じーっと見つめた。
「────」
正和がこのチョコを食べるのかと思うと、なんだか嫌で、純は表情を曇らせる。デートの予定が潰れて一人寂しく過ごすことになったから、尚更そう思うのかもしれない。
普段なら勝手に食べたりなんて絶対しないけれど、開けてあったし、置きっぱなしだったし……と心の内で言い訳しながら、包み紙を開く。中からころんと出てきたそれは可愛いハートの形で、複雑な気持ちで口の中に放り込んだ。
舌の上で蕩けるそれは甘くて、とても美味しい。ゆっくり溶けていくのに焦れて、ぐにゃりと噛めば、とろりとほろ苦さが広がって、とても良い香りが鼻を掠めた。中に入っていた液体状のチョコレートが後を引く。
つい「もう一個」と手を伸ばして、夢中で食べているうちに、箱の中にはあと一つだけとなっていた。
「まさかずさん……」
その頃になると、純の頬はほんのり赤く染まって、呂律も回っていなかった。覚束ない足取りでソファに戻る途中、正和が脱いでいったニットを見つけて、それをぎゅっと抱き締める。
「いいにおい……」
スンスンと鼻を鳴らしてしばらく顔を埋めた後、純は自分の着ていた服をぽぽいと全て脱ぎ、彼のニットを頭からすっぽり被った。
「……ぶかぶか」
不満そうに唇を尖らせて、クッションを抱えソファにこてんと横になる。
「……まさかずさんのばか。今日はお休みって言ったのに」
今ここにはいない恋人に文句を言いながら、うつらうつらとしている内に純はそのまま眠りについた。
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