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いじわる彼氏とバレンタイン ②
「ただいま。純、遅くなってごめ──」
帰ってきて上着も脱がずに真っ先にリビングへ向かった正和は、ソファに横になっている純を見つけて一瞬動きを止める。
(え……何、なんで俺の服着てんの? 寝てる? てか、それ……下どうなってんの?)
セーターからのぞく淫靡な生足に正和の胸がドキリと脈打つ。
キメ細かい白くて艶やかな肌。弾力があってふっくらしている柔らかそうな脚はスラッと伸びていて形も綺麗だ。ちょうど大事な部分が隠れるくらいの見えそうで見えない長さに、本能が刺激され正和の胸はドキドキして落ち着かなくなる。
「──純、こんなとこで寝てたら風邪引くよ」
「ん……ぁ、まさかずさん……?」
「なんで俺の服着てるの?」
「んー、なんでだろ……分かんない」
純はそう言いながら起き上がると、長い袖を一生懸命捲り始めた。
ぶかぶかな服で隠れた手。指先が少しだけ出ているそれは正和の色慾をさらに煽る。
(彼シャツとか萌袖とか何が良いのかさっぱり分からなかったけど、これは──)
「……そそられる」
「おそで、まくって?」
「っ……」
純は片手では上手く袖を折ることができないらしく、手を差し出して上目遣いで首を傾げる。
(何……? 凄い可愛いんだけど。狙ってやってる? 下は? パンツはいてるの?)
「やっ、ちがぅ、っ……すそじゃなくて、そで……」
正和は大事な部分がどうなっているのか気になって、ニットの裾を捲ろうとするが、純は慌てて服の裾を押さえてしまった。
下着は身につけているのだろうか。そんなことが気になって悶々としながら、マフラーを外しコートを脱ぐ。
「ねえねえ、まさかずさん……!」
甘えるような声で正和の名を呼ぶ純は、いつもと様子が違う。正和は脱いだ上着をソファの背もたれに掛けて、赤くなった純の頬にそっと手を当てた。
(熱はなさそう。……酔ってる?)
ふとテーブルに目をやると、色とりどりの銀紙が散らかっているのが確認できる。よく見るとそれはチョコの包み紙で、見覚えのある箱の中身はほとんど残っていない。
(あーこれ、お酒入り)
どうしたものかと思わず目を伏せれば、純は長く垂れ下がった袖でパタパタと叩いてくる。
「ねえ……そで、おりおりしてってば」
「はいはい」
正和は軽く返事をして、それぞれの袖を三回ずつ折ってやる。それでも親指の付け根辺りまで長さがあるが、にっこり笑みを浮かべてご満悦のようだ。
「チョコ、全部食べちゃったの?」
「……ぜんぶはたべてない」
「でもいっぱい食べたね」
「だ、って……俺以外から、もらうなよ……っ。デートもすっぽかすし、仕事だって分かってるけど、やだ」
ツンとした言い方だけど、素直に心の内を吐き出す純を見て、正和はクスクス笑う。
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