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正月編
正和さんに呼ばれてリビングに行くと、ソファの背には着物らしきものが掛けられていた。
「こっちきて」
「着物?」
「そうだよ」
手招きされて彼の近くまで行けば、着ていた部屋着を脱がされそうになって慌てて彼の手を止める。
「純」
「っ……それ、着るの?」
「うん。今日は零夜も来るから」
そう言って再び脱がせ始める正和さん。眉尻を下げて着物をじっと見る。
「でもこれ女物じゃ……」
「んー、そう見えるー?」
「だって……柄もアレだし……」
「純に似合うと思うよ」
会話をしながら瞬く間に脱がされて、足袋を履かせられ、布を巻かれて次々と着せられた。綺麗な白や水色の生地に、たくさんの花が散りばめられた可愛らしいこの着物が男性用の物とは思えない。
俺の着付けが終わった後、正和さんも着替えるが、彼の着てるものと自分のものではそもそも形が違う。
「俺のと違う……!」
「あー、俺のは袴だから」
「これ絶対女用で――」
「あ」
「……なに?」
俺の言葉を遮るように呟いた正和さんに問うと、彼は顔を近付ける。
「っ! んんっ、ん、ぁ」
お互いの唇が合わさって、舌が歯列をなぞり入ってくる。上顎をくすぐられ、荒々しく舌を絡め取られ、鼻からぬけるようなくぐもった声が漏れた。長いキスに頭がぼーっとして、体の力も抜けてくる。
「はぁ……っ」
強引だけど気持ちよくて、胸がドキドキして体が火照る。
ゆっくりと唇が離されて、とろんと弛んだ顔で見上げれば彼は優しく微笑む。
「まさかず、さん……?」
「ふふ、もうすぐ来るよ」
何か誤魔化されてしまった気もするが、今そんな事はどうでも良くて。来客の前に火照った体をどうにかして落ち着けなければ。
正月らしい華やかな髪飾りをつけられた所で、来客を知らせるチャイムが鳴った。
* * *
「――――」
「ごめんって。そんなに怒らないで」
俺が着せられたのはやはり女性の着物で、零夜さんに指摘されて恥ずかしい思いをした。
(そもそも男が花柄の着物って……)
「嘘つき」
「嘘は言ってないよ」
(……ずるい)
「それに凄く似合ってる。可愛い」
(そんなこと言ったって俺は誤魔化されないし)
正和さんから顔を背けて唇を尖らせる。視界の端に映った彼は短くため息をついて眉を顰めた。
「ごめんね、純。……栗きんとん、たくさん作ったけど後で食べる?」
「――――」
「……じゃあ、いいよ。いつまでもそんな態度なら俺も怒るよ」
そう言いながら歩き出した正和さん。機嫌が悪くなってしまった彼に不安を覚え、慌てて羽織の裾を掴んだ。
「……たべる」
「――――」
「ごめん、なさい」
「……おいで」
手を引かれてぎゅっと抱きしめられる。正直、何で俺が謝らなければならないのかと思う。だけど、仲違いするのはもっと嫌で、素直に彼の腕の中におさまった。
「脱いじゃおっか」
「え」
「純は着物嫌みたいだし……そろそろヤラシイコトしたいでしょ?」
「や……っ、お、俺はしたくない」
項 をちうっと吸われて肩を竦める。逃げるように胸を押して距離を取れば、彼は帯に手をかけた。
「せっかくだから帯回ししちゃう?」
楽しげに言って、綺麗に華蝶結びされた帯の飾りや紐を解く。
「や、やだ」
正和さんはニヤリと笑って「良いではないか、良いではないか」とお決まりの台詞を言いながら帯を引く。
「う、わ……」
くるくるくるくる……。
彼は帯を丁寧に畳んでソファの背に掛けると、俺の事を抱き寄せる。
「やだとか言って、満更でもないじゃん」
「どこが!」
「だって俺が引っ張っても純が協力してくれなきゃ回らないんだよ、これ」
「っ……!」
(だって、つい……!)
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべて、するりと服の中に手を入れた。
「ああ、でも帯締めたままシても良かったよね」なんて言いながら、太ももを厭らしく撫で回す。
「純は着たままするのと、脱いでするの、どっちがいい?」
「そんなのどっちも――」
「どっちもしたいの? やらしいね」
「違っ、どっちも……んんっ」
言葉を言い終える前に言ってくる正和さんに慌てて否定するが、キスで唇を塞がれてしまう。彼の胸をポカポカ叩くが、彼は優しく舌を吸い上げて、宥めるように絡め取る。深い口付けに息が上がって、縋るように彼の胸元をぎゅっと掴めば、上顎を舌先で刺激されて、後ろがキュンと疼く。
「はぁ……はぁ……」
長い口付けが終わって、ゆっくり口が離れると、お互いの唇を銀色の糸が結ぶ。キラリと光ったそれは、なんだかとても厭らしい。
「それで? もう一回聞くけど、どっちもしたいんだよね?」
「っ……」
ニコッと笑って聞いてくる正和さん。否定したら、お仕置きされそうな威圧感。俺に選択肢はない。
「じゅーん」
「~~っ……したい、です」
楽しげに笑った正和さんは俺の額にチュッとキスを落とす。
「じゃあ期待に応えなきゃね」
そう言って俺のことを抱き上げると、寝室へ足を向ける。パタリと閉じた扉を見て、これは朝まで寝られないな、なんて思いながら、俺はベッドに押し倒された――。
おしまい。
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