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4月1日編

 春休みに入って、のんびりと過ごしていた暖かな日。そんな雰囲気をぶち壊すような正和の一言に、部屋の空気は一気に冷えた。 「え……今、なんて……?」  言われた言葉があまりにも衝撃的で、純は消え入りそうなほど小さく震える声で聞き返した。見開いた瞳は次第に濡れて、じわりと涙を溜め込む。 「だからさ、もう別れようって」 「そんな……俺、正和さんに何かした……?」  震える声で独り言のように問いかけるけれど、彼からの返事はなくて、純は手をぎゅっと握り締めて俯いた。 「何かしたなら謝るし……悪いとこあるなら、なおす、し……」  最後の方は声が掠れてしまったが、聞き取れないほどではない。それなのに、正和は黙ったまま何も言わないので、純は恐る恐る顔を上げた。  しかし、そこには想像していたような彼の表情はなく、正和は何故かクスクスと笑っていて、予想外の彼の態度に純は眉根を寄せる。 「何で笑うんだよ……」 「いや、俺って愛されてるんだなぁと思って……ふふ」  そう言った正和が純のことを抱きしめるが、純は状況を理解できなくて、ただ呆然としていた。その間も正和は優しく純の髪を梳いて、額、頬、鼻と順にキスを落とす。  純は困惑したまま降ってくるキスを受け入れていたが、唇にされそうになって、慌てて正和の胸を押し、距離をとった。 「純……?」 「何で別れるとか言って……キスなんて……」  そう言った純の瞳からは、涙がぽたぽたと零れ落ち、体を震わせて床にうずくまる。 「――――」 「っ……ひっく」  沈黙がしばらく続いた後、正和は困った様子で泣いている純の背中をさすり、濡れた頬を優しく撫でた。 「ごめんね。全部嘘だよ」  純の目元を指で拭いながら、申し訳なさそうに呟いた正和に、純は顔を上げて目を合わせる。 「う、そ? ……なにが?」 「全部。別れるなんて嘘に決まってるでしょ」  宥めるように言った正和は、純を優しく抱きしめると、純の額に自分のそれを、こつんと合わせた。 「なん、で……そんな嘘……」 「エイプリルフールだからさ、ちょっと試してみようかなって。……ごめんね」  純は安心したのか再び咽び泣いて、頬を伝って流れる大粒の涙を正和が指で優しく拭った。 「……冗談でも、そんなこと言うなよ……っ、ばか」 「ほんとにごめんね。そこまで真に受けるとは思わなかったんだよ」  泣いている純を愛おしげに見つめて、正和は幸せそうに微笑んだ。  いつもなら「ばか」と言われてお仕置きしないはずがないけれど、ここまで想ってくれている純に酷いことをしてしまった、という自覚はあるようで。純のことを優しく抱きしめて、純が泣き止むまでずっと背中をさすり続けた。  純がようやく泣き止んで顔を上げると、正和が顔を近づける。純もそれに応えて、唇と唇がそっと触れ合うと、お互いの胸が熱くなった。 「愛してるよ」  その後、二人が体を重ねたのは言うまでもない。

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