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第3話 EP1:愛引 オメガの仕事 -1-
―……僕は、誰かの役に立ってるのかな……?
―……僕で家族のお腹が膨れて、新しい衣服や物に笑顔になれたかな?
――……僕は、誰かの笑顔を作れてるかな?
「―……ミトナ、"治療"……を、頼めるか? 一応、事前に"指名"を受けていたんだが……」
いつも少し困った顔で僕に頼んでくる管理官……ハーモスさんは、優しいと思う。
ここでの僕の存在意義を忘れてはいないと思うけど、気遣われるのが単純に嬉しい。
僕は、有る意味"道具"でしかないのに……。
「……はい……。僕を指名だなんて、嬉しいですよ? 誰ですか?」
「そうか。なら、早速頼む……。"カティオ"を救ってやってくれ……」
「分かりました、カティオさんですね」
そして僕は依頼を受けて準備部屋に行き、『発情誘発剤』と『妊娠抑制剤』の小瓶に手を伸ばした。
アルファの魔人化を治すのには、"発情中"のオメガの精、が条件。
僕の発情周期以外での事なので、こういう時は薬を使って意図的に身体を発情状態にする。
あとは必ず相手の放つ『精』を取り込まないといけないから、直接的な"避妊具"は使用しない。
抑制剤を飲むのも、"事後"だ。全て終わってから飲まないと『固有の特効薬』が作れない。
「頑張らないと……!」
……貧しい僕がお金を得る為に自分の身体を売る……、にしても、"男娼"になるより"薬"になった方が良いように感じられたんだ。
オメガの男娼は下手をすると、非合法に薬の役目をやらされたりするそうだ。なにそれ怖い。
僕が自ら薬となるのを申請したのは、ちゃんとした機関で検査を受けて合格したから、僕は管理されながらここに居る。
それに毎回ちゃんと必要な『発情誘発剤』と『妊娠抑制剤』の小瓶を貰える。
これが無いと大変だ。自分で手に入れるにしても、貧乏で来た僕は毎回買えるだけのお金が無い。
……貰ったお金……お給料? は、必要な金額を外した残りを全て家族に仕送りにしてもらっているから……。
たまに貰う手紙で両親や弟達から、使った用途と御礼の言葉を貰うと、たまらなく温かい気持ちになる。
この手紙の遣り取りも、この機関だから出来る事だ。
「……ん、と……」
そして僕は今度は自分のペニスの根元に特殊なベルトを巻き、締めた。
これは"射精"を調節する特殊なベルトなんだ。
僕は"薬を"確実に与えないといけないからね……。
思いのまま、シちゃいけないんだよ。
後ろは普段から色々処理しているから、大丈夫。
前準備に時間を取られ過ぎる訳にはいかないからね。
魔人化を早く治して上げないと。
素肌の上に一枚だけ前開きのチュニックの様な服を着て、僕は準備部屋を出た。
「……よし、仕事、だ」
そして遂にカティオさんが待っている扉の前で、僕は自分の首筋を護っている、金属製の特殊な首輪を撫でた。
これは"事故的な番化防止"の意味がある。
発情中にオメガがアルファに首筋を強く噛まれると、"番化"が起こるのだ。
この"番"化は相手を固定する働きがあるから、番相手にしか"治療"が効かなくなる。
そして"番"は『運命の番』と『強制番化』が有る。
『運命の番』はそれこそ、"全てが無条件で惹かれあう"、まさにロマンティックな存在だ。
……しかし、出会える確立も、まさに"運命"クラスであるが……。
僕も憧れはあるが、無理だと思っている。
『強制番化』は"気に入って好き合う者同士"が一般的にする行為だ。
結婚相手や恋人、……愛人、もこの括りなのかな?
『運命の番』以外の番方と言うか……。そういう感じ?
こちらは"解除"が出来るが、大体はなされない。やる方も気安くしてない証拠なんだろう。
ただ、"事故"……等を想定して、未然に首輪とか……そう言った防御をしておくには、暗黙のルールというか……。
ま、まぁ……何時までも彼を待たせておく訳には当然いかないので、僕は白い扉に付けられた真鍮のノブを掴んで手前に引いた。
事が始まれば、僕も彼も早くてニ、三日……長くて一週間程、この部屋から出る事は無いだろう……。
「ふー……はー、ふ~~~~……」
……よし、準備万端! イザ!!
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