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第5話 EP1:愛引 華やぐオメガ
僕が"薬"として派遣された所は故郷から大分離れた、西方の方だ。
ここは大きな戦線は張られ、結構戦闘が激しい。
十七歳でここに来て、もうすぐ二年が経つ。
"薬"となると、契約で二年は絶対に"薬"として働かないといけない。
……そろそろ二年目……。
「……"継続"、かなぁ……」
カティオさんの治療を終えた僕は色々処理をして、今は施設内で薬仲間のオメガ達がいる場所に戻ってきた。
彼らは彼らで僕の大事な大事な仲間だ。
オメガ同士の話しや、悩みも共有、解決出来て……とても大事なんだ。
アルファの騎士様の話しや、ベータの管理官達の事、オメガでしか分からない戸惑いや様々な悩み……。
ここの皆は優しい。本当の兄弟とは別な兄弟みたいだ。
僕は長男だから、僕より年上のオメガを素直に"兄"と慕えるのが嬉しい。
本来の兄弟では味わえない感覚だ。
「ただいま~」
「お帰りー、ミトナ! ケーキ、食べる? ミクアさんに貰ったんだぁ」
「うん! 食べる!!」
「ほいー。座って待っててー」
扉を開けたら、丁度『お茶会』を始めたところらしく、紅茶とジュレがキラキラしたフルーツケーキがあった。
そして直ぐに僕の分が用意され、皆でパクつき始めたら……
「……親がオメガ同士のオメガなミトナ"姫"は、アルファ騎士くん"達"に人気だね~。"予約治療"だったんでしょ?」
同い年のオメガの"リュン"にニヤニヤ顔で急に言われた……。
「え……? ええ?」
「もはや美し過ぎて嫉妬も起きないわ」
「うんうん。言えるー」
「りゅ、リュン……? アイロ?」
彼らの言葉に他のオメガの子達も「だよねー」「ミトナはねー」「むしろ僕が保護したいー」とか色々言い合ってる……。
ううう……何だか気恥ずかしい!!!
予約を受けたけど、皆だって、綺麗で可愛いくて華奢じゃん!!!
……ふふふ……。ケーキ食べ終わったら、くすぐりじゃれてやる!! 「ひーひー」言わしたる!
そんな決意を胸に秘めた時、急に勢い良くドアが開いた……
―ばぁん!
「みんな、聞いてー! 最新情報だよー!! 今度、王都から第三騎士団がここに視察派遣されるんだって!」
現れたミガネの情報通オメガのシュニアが大声で一気に喋り、彼は「ふんす!」と鼻息荒く二マリ顔を決め、他は僕を含めてポカーン顔だった。
しかし、早くも復活した仲間が声を上げ始めた。
「ええ!? 第三、とかって凄過ぎじゃないか!?」
「ここって、一応大きな要所の一つだから?」
「確かに。第一と第二は王都護衛、実働は第三からだもんね~」
「新しい目の保養だー!!」
……僕も静かに興奮してくる……。
二年間いるけど、こんな事、初めて……。
「そんならさぁ、所長は"団長さん"に、自慢のミトナを"付ける"と思うよ!」
アイロ!?
「そ、そんな!? 身分が有る人の相手なんて、貧民街出の僕が……相手だなんて、な、無いよ!」
「もー! この機関に入ったら、身分はよっぽどの事が無い限り、関係無くなってるんだよ?」
「そーそー。"身分"で縛って、魔人化で"命"を落としたら最悪だもんねー」
「うんうん。それに僕達はちゃんと検査を受けて合格貰っているし、定期健診も受けているしね。そこらの一般の人達より案外マシだと思うよ」
「で、でも……、団長さん……は僕じゃなくて、ミーファを選ぶと……」
そう。ミーファは僕より経験豊富だから、粗相しないと思うんだ!
それにね、ミーファは美人で……柔らかいんだ。
僕、いつもミーファに抱きついたりしてじゃれてるから、柔らかいの知ってるんだ~。
でも、僕の言葉にミーファはニコニコと……
「所長が決めるのじゃなくて、来る団長さんが指名してくるかもよ?」
おお!? その手が……!?
「なら、僕にもワンチャンあり!?」
「わー、ヤーシュクは狙ってるんだ?」
「オメガで狩りは苦手だったけど、僕にも流れている狩猟民族の血が騒ぐ~~! がお~~~!」
「あはは、何それー。ヤーシュク、"がお~~"じゃ、狩られる方じゃない?」
「え!? あ! そうかも~~」
「ああん……! なら、"運命の番"……もしくは、滞在中に僕を気に入ってくれて、"番"として身請けしてくれる騎士様は居ないかなぁ~?」
「リュンは現実的な感じだねぇ……」
「うん、僕、"番"に憧れてるんだぁ……。出来たら、"番"……好きな人の…………子供、産みたいもん……」
今はザワザワと大きな塊の中で、いつの間にか個別に分かれた会話がそれぞれ展開している。
「番……」
フォークをカチリと齧りながら、理想の番を妄想してみる……。
僕は……ちゃんと怒るところが分かってる、年上の落ち着いて優しい人、が良いなぁ……。
そして、僕の事を優しく撫でてくれる……大きな手の人が理想かな!
僕が"ぽー……"っとそんな事を考えていたら横からアイロが話し掛けてきた。
「ねぇねぇ、誰が騎士様達の専属の相手に選ばれると思う?」
「ん? 専属なの?」
「そりゃぁ……滞在中はそうなるんじゃない? 相手をあらかじめ決めておいた方が、色々面倒な事が起きなさそうじゃない」
「まぁ~~~……うん、そうだね」
「そうそう」
アイロと話しながら仲間達を見る。
みんな綺麗で可愛くて、華奢な感じだ。
そこにそれぞれの個性が加わって、固有のものになる。
……確かに一人であっちこっちと掛け持ちが起きたら、何となく辛いかも……。
そう言う面で専属、って大事だなとか温くなった紅茶を飲みながら僕は結論付けた。
―……そしてその夜、第三騎士団が視察に来る事が告げられ、滞在期間中の彼らの専属オメガが発表された。
「―……ミトナ、カティオの治療後直ぐだが宜しく頼むぞ」
「は、はい!」
何と僕まで選ばれてしまった!
「それでは選ばれた者は明日から、専属管理官の"検診"を受けて準備するように」
ほあー。"検診"かぁ……。なら僕はハーモスさんだな。
ちなみに管理官の人達は全員"ベータ"性なんだ。
僕はチラリとハーモスさんの方を見たら、"ニコリ"と笑顔を返された。
……あれ? そんな反応を返してくれたって事は、見られてたのかな……?
そしてそんな考えに至った時、同じく選ばれたリュンから「やっぱりミトナ、選ばれたね!」と抱きつかれた。
この言葉に、第三騎士団の団長さんの事を思い出した。
……き、緊張する~……。
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