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第12話 EP1:愛引 それは欲望 -2-

そして全員の顔会わせは到着日の夕食前ではなく、翌日の朝食後に行われた。 第三騎士団の団長様は今回、番のオメガを伴う事で準備の為に、ここに到着するのが数日後になると説明された。 これで団長様の薬役は番の方だと明確に分かった。 それから一通りの儀礼を終え、今は騎士団と薬役だけがホールにいる状態だ。 最初の顔合わせは集団同士が挨拶をする程度で、個人の紹介や接触はされてない。 今は自由に動けるけど、地位的なところでオメガから声は掛けられず、アルファの騎士様の声待ち状態だ。 僕はマントを畳み、この場でお礼と共にマントを返そうと決めて持参した。 声は無理でも、キョロキョロと視線を這わせて目的の騎士様を探す。 「……………………」 あ、あの……髭の渋イケメン騎士様、昨日居なかった……よね? ……すごく格好イイ……。 目的の騎士様を忘れて、僕は"ぽーっ"とその騎士様を見続けていた。 すると、僕の視線を感じたのかこちらに顔を向け、何と微笑んでくれたのだ! 僕はますますうっとりとした表情で騎士様を見続けていたら、彼がこちらに近づいて来た。 騎士様がこちらに来る事にドキドキと緊張したけど、僕は視線を外せずに彼を待った。 そして、いざ対峙した時に、横から別な騎士様が…… 「―……ぷっ。可愛いオメガ相手に急に色気付いちゃって、副団長さんの方がカワイイ~。ぷぷっ……」 「ゼク!」 「!」 今"ゼク"って言った、この声!! ……この人、昨日の一番目のマントの騎士様! ……って、"副団長"……!? そして話しに加わったのは、"声"から判断すると二番目にマントを貸してくれた騎士様だ。 ふわ~……こっちは甘いマスクのイケメン様でしたか……。さすがアルファ性……二人とも精悍な感じで格好良い。 「昨日、保護した子にアピールしたいんですよね?」 「な、にを……!」 「!!」 "昨日、保護した子"……僕!? 「分かりやすいですよ~?」 「ぅるさいぞ……向こうに行けっ」 そして現れた騎士様は僕に"ニコリ"とした笑顔を向けると「一時退散だ」と言いながらどこぞへ行ってしまった……。 その間、僕の頭の中は『昨日、保護した子』がループしていたんだけど、思い出した。 ―……話しの相手はユーリカかも……、と……。 急に"しゅーん"となる。 一瞬でも、『自分だと』、感じたことが恥ずかしい……。 僕に話し掛けてくれたのも、ユーリカの事を聞く為かも……。 自分の考えが恥ずかしくて頬が熱いし泣きそうだけど、僕は身長差の関係から副団長様を見上げた。 「…………」 「……ぁ、っと……だな……、その……」 何かな? どうして言いよどんでいるの? ユーリカの事、聞きづらいのかな? 「……僕と一緒に保護して頂いた彼なら、数日休めば大丈夫だそうです」 「そ、そうか!」 僕が声を出せば何だか明るい表情……返答の後の吐いた息は安堵の様だし……。 やっぱ、ユーリカが気になっていたんだ……。 本当に泣きそう……。 でも、ユーリカは今回のスライムの件を抜きにしても騎士様達の薬役には選ばれてないんだよね……。 それに所長の話しでは薬役として選んだ中から、お気に召した相手を……って考えみたい。 なら、僕にチャンスが無いかなぁ……。 この副団長様の薬役として、彼を僕が癒して上げたい。 でも、上位のアルファの騎士様を一介の薬のオメガが逆指名だなんて……出来ない。 オメガの地位は……とても低いんだ。 外に出れば、オメガを護ってくれる人は案外少ない。 この施設に居て、"薬役"という肩書きの有る事でそれに"護られている"んだ。 一般的にオメガはあまり良く思われてない……。 三性と交わえて、どの子も産めるし身体能力も低いから、色んな意味で乱暴な犯罪が多い。 しかも"発情フェロモン"が"見境無く誘惑"してると思い込んでいる、想像だけで決め付ける一方通行者は……実は多いんだよ。 そういった人の声が大きければ、多ければ、それだけで数の暴力になるんだ。 正義は常に自分の中だけにあって、その正義に力を行使する事に疑問が無い。だって、その人は"正しい"と思っているからね。 周りには多くの仲間がいる。それが自分の普通。"普通"に、違和感が無いんだ。 "普通"が"異常"かもしれないのに、その人にとって"普通"だから"異常"じゃ無いんだ。 「…………」 「……ぁー……っと……」 まだ何か僕に聞きたい事があるのかな? 僕も早くこのマントを返さないと……。 返したら接点……なくなっちゃう……な……。 「…………」 「…………」 う……。沈黙になっちゃった……。 視線は僕を捕らえたままだから、まだ僕に用があるって事だよね? やっぱり、マントの事かな? それとも、僕にユーリカを紹介して欲しいの? 「…………」 「…………」 でも、副団長様を見ているとお腹の奥が引っ張られる……この感じは何だろう? ―……彼に、選ばれたい。 選ばれたい……。 独占、したい……。 ……したい。

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