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第13話 EP1:愛引 鐘が鳴る -1-
「―……騎士様、あの、このマント……ありがとう御座いました……」
返そう。
声がトーンダウンしていくの……どいうにかしないと……。自分の気分に飲まれそうになって、嫌になる……。
騎士様の顔が見ていられなくなって、僕は折りたたんだマントに視線を固定していた。
それに、頭を下げる様にしておけば前髪で自然と顔が隠れる。
僕は下を向いているのに、騎士様の視線を感じる。……ますます自力で顔を上げられない……。
「……俺の名前は……クライム。……君、の名前を……良かったら、その……俺に……」
「ミトナ、です!!」
あ。……思わず勢い良く顔を上げてしまった。
だ、だって名前! 話し掛けられた!
「……ミ、トナ……?」
「ぁ……。は、はい……、ミトナ、です……クライム様……」
どーしよー! 嬉し過ぎて勢い込んじゃったよぉおおぉ……。
は、恥ずかしい……。一喜一憂の差が激しいし……。
僕、どうしちゃったんだろう?
とにかく、クライム様にあまり変な子だと思われない様に……。
「……ミトナ……俺に街を、案内して欲しい」
「は、はい! 僕で良ければ……!」
ええー! 驚きの連続!
これは引き受けるしかないでしょ!?
「ああ、宜しく頼む」
「はい、クライム様」
そしてクライム様と僕の会話が終わった辺りから、他の騎士様達がオメガに話し掛け始めた……。
僕の腰にはクライム様の大きな手が添えてあり、感動だ……!
嬉しすぎて、視界が潤んできた。
とりあえずクライム様に街を案内する役を貰ったけど、まだ薬役と決まったわけじゃない。
精悍な顔のクライム様を見上げていると、不意に視線を感じた。
その視線を辿ると、そこに立っていた人物は……
「…………」
「…………」
ゼク様だった。
特に僕達に声を掛けるでもなく、見ているだけ。
何だか不思議な気分だ。
そして僕と少し無言で視線を絡め、僕に僅かに口角を上げる笑みを向けてオメガ達の方へ行ってしまった。
何だったのだろう?
「―……何か、考え事かねミトナ」
「ぁ、えっと、少し……。でも、何でも有りません。
そうだ! クライム様は街でどこか行きたい所とか、ありますか?」
「そうだな……ここの市場を見てみたいかな。
……それと、どこかゆっくり飲食が出来る所が知りたい。
それと……ミトナのお勧めの好きな店……。何だ、回るのに時間が掛かりそうだな」
「ふふっ。そうですね。結構大きな街ですから……」
ゼク様も気になると言えば気になるけど、僕はクライム様との事の方が気になる!
僕の腰に回された手が嬉しい。
クライム様の近くに居ると、ドキドキもするけど、何だか満たされていく感じ。
こんな気分、誰かの隣りに居て、誰とも味わった事が無い。
周りの人達もそれぞれ大体決まった様で、そのまま話している者や部屋から出て行く者……それぞれだ。
「……クライム様は、この後の予定は……?」
「いや、特に無いかな。団長は数日後だしな。……ただ、今回のスライムの件は報告が必要だが……」
「では、とりあえず……時間が空いているのですか?」
「そうだな」
「では、今から街に行きませんか? お昼、街で食べましょう?」
早くクライム様と仲良くなりたい。
それにしても、言葉が全部疑問形だよ……。
オメガがアルファに感じる性急な近寄り……って、こんな感じなのかな?
ガツガツしちゃうのは、本能?
だって、クライム様……良い香り……匂い。
今までのアルファの人達とは、格別に違う……
―……僕だけの、匂い……。だってクライム様は、僕の…………
「…………だもの……」
「―……そうだな、昼はミトナのお勧めの店に……って、どうした? ミトナ……?」
「……ぁ、あの!? な、何でも、ナイ……です……」
な、何……!? 今の思考は……!?
意識の焦点が無くなった時に、湧いてきた……。
何だか一番自分に"忠実"な、剥き出しの感情……本能?
心臓がバクバクする。色々なバクバク感が増した。
でも、僕の中でクライム様と出会った瞬間、"何か"が『パチリ』と嵌ってロックされてしまった。
幽かな……変化だけど、もう"抗えない"……。
クライム様からの匂いが脳内に再生されて、僕の中でどんどん範囲を広めている。
少し嗅いだだけでも、すぐこの匂いを再生出来る。反応出来る。
心が幸福に満たされ、歓喜が起きる。
……それと同時に、"欲しい"……本能に従順な欲望がちらつく……。
オメガな僕が、アルファの彼を襲いたくなる。
彼をとり込みたい。ある意味、"食べたい"。
ああ……とても美味しそうで……舌なめずりをしてしまう……。
「……行きましょう、クライム様……」
「ああ」
―…………クライム様、クライム様は……僕に、どう……何ですか……?
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