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第17話 EP1:愛引 運命、とは / クライム視点 -2-
「……帰ってきてない?」
俺は今日から世話になる研究施設から「森の泉に行っ二人のたオメガを捜索して欲しい」と依頼され、思わずオウム返しをしてしまった。
ベータの所長が俺の言葉に「はい」と答え、再び頭を下げた時、俺はとっさに口を開いた。
「捜そう。オメガは闇族に狙われない……かもしれないが、森には魔物も多く生息しているからな」
そこで俺はゼクを含む同伴者を伴っていない騎士達を集め、森に足を踏み入れた。
かすかに魔物の気配が感じられ、"近い"事にゼクを見れば、奴も感じとった様で頷きを一つ寄越した。
この森は闇族との国境に位置する。
そういう点でも、オメガを素早く見つけないといけない。
そして森の獣道を進んで、数分で俺達は独特の痺れる匂いに歩みを止めた。
この漂ってくるニオイ……不味い。
「……これは、オメガのフェロモンじゃないのか?」
「確かに……」
「……何か起きているのか? よし、全員、中和剤を……二錠飲め」
一応、中和効果はあるが完璧じゃない。一時的なもので、精々三時間程度だ。
「念の為に言っておくが、中和剤は個人差がある。どうしても我慢出来ない者は申請後、一時離脱を許可する。
……いいか、我々は"騎士"だ。それに恥じない行いで対処する様に」
……要するに、『お前等、助けたオメガを襲うんじゃねーぞ!』、って事だ。
しかもここで俺達騎士集団が暴走したら、本当に恥だ。
俺達アルファの騎士だって、光族全員に好かれている訳ではない。
チクチクとゴシップを狙う奴等にわざわざ美味しい餌を自ら食材になって、更に調理される訳にはいかないのだ。
腐った甘い汁を吸い続けたい、腐乱好きの虫はどこにでも潜んでいる。
甘ければ甘い程、群がる。
それに"オメガがフェロモンを出していたから許される……"、などと、ふざけた屁理屈で何でも許されるなら、同じ事をされてみろ!
……精神性の低い、野蛮の極みだ……!
―……そして、見つけた二人のオメガ……。
「~~~ッ!?」
―……念の為に薬を全員に飲ませておいて良かったと、強く思う。
目の前には、裸体のオメガが二人……。
特に具合の悪そうな者を庇っている方……素晴らしい美しさだ。
俺が今まで出会って来たオメガの中で、一番に……違いない。
不思議と彼だけ、ぼんやりと輝いて見える……。
不味い……身体が反応しかけて皆、動けないのか?
そこで俺は第一声を上げた。
そしてそれに合わせてゼクが動き、他の者達も動き出した。
護衛しながら感じたのは、初見の時のフェロモンの衝撃が無くなっている、という事だ。
薬で中和された訳じゃない。
違和感を感じる。
それから事務的に保護したオメガを渡し、俺達は宛がわれた部屋へ向かった。
顔合わせは明日だ。
「…………」
俺は洗面所の鏡を見て、自分の髪の毛と髭を触った。
鳩羽色の髪の毛に、赤銅色の瞳。
「整えて貰うか」
騎士団の中に器用な奴がいて、遠征先で皆から結構な頻度で髪切りや髭の手入れを頼まれている。
ちなみに俺も初めてではない。いつもな感じで頼もう。
そして俺は色々と整えて貰っている時、脳内では助けた美しいオメガを思い出していた。
この研究施設で彼と少し会話が出来たのだ。
会話をした感じ……悪くない。むしろ、興味が湧いた。
そんな事をゆったりと考えている内に散髪等が終わったらしく、俺は礼と代金を払って部屋に戻った。
そして素直に身体を休める為にベッドに横になった。
瞳を閉じ、ここでも彼を思い出す。
意識は直ぐに沈下していった……
彼と初めて見た時、俺は初めて"好かれたい"と思った。
彼にだけ、興味が湧いた。与えたい、求められたい……優しく触れて強く繋がりたい。
『……クライム様……』
夢? 彼が、俺に……会いに来てくれた……?
いや……あの時の少しの会話から得た、彼の声の音の情報から俺の脳が彼を創り上げたのか……。
髪を下ろして腰布だけの、彼。
耳下に鼻をやり、彼自体の芳香を求める。
俺の行動にくすぐったそうな声を上げて、背中に腕を回してもたれる細い身体。
そのまま抱き締めて逆に彼の背中を撫でれば、可愛い声に甘さが混じり俺を煽ってくる。
そして…………?
「……明け方に何を夢想したんだ、俺は……バカか」
―……しかし、
「―……彼、だ……彼こそ……」
俺の理想の、実在する男。
"見つけた"という、不思議な達成感をと充実した気持ち合わさり、気分が高揚する。
そう。まさに、これに相応しい……!
「……"運命の番"……?」
団長は、こういう気持ちを味わったのか?
"薬"とか、そういうのではなく、彼とはもっと別な形で……―…………
「手に入れ……――……る。手に入れなければ……気がおかしくなりそうだ……」
俺は既に声と手が震えている。
――……誰にも興味が湧かなかった。
だが、彼は違う。
湧き起こる。自然と求めてしまう。
……これが、運命、だ。
そうでなければ、"何だ"と言うのだ……――……?
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