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3.考える

「M大の売り? さぁな。俺の学力でも入れて家から通えるぐらいだが?」  なにその高校選んだ理由っぽいの。そんなに気軽に大学って行っていいものなワケ? 「もっとこう、この大学じゃなきゃ! みたいなのないわけ?」 「そんなの大学行きながら探してもいいんじゃないか?」  ぐうの音も出ない。確かにそれもそうだけど、これじゃ親を説得する理由にならない。 「……そうだね」  雅人と一緒にいたいだけなんだけどな。でも雅人はそこまでして僕と一緒にいたいわけじゃなくて。  そう思ったらなんか鼻の奥がツンとなった。なんだよ、これじゃまるで女の子みたいじゃないか。 「智」  僕の様子がおかしいと思ったのか、雅人は僕の額を指先でトンと突いた。だからその気もないのにこういうことをするのはやめろと思う。 「……言ってなかったのは悪かった。けど……」 「いいよ。ごめん、僕がしつこかった。休みは遊べるだろ?」 「あ、ああ……」  あんまり言ってうざがられるのは本意ではない。本心を隠して笑むと、雅人は一瞬はっとしたような表情をした。それで進路についての話は終りだった。  *  * 「……ずっと一緒だって思ってたのに」  体育館のギャラリーの手すりに懐きながらバスケ部の練習を見守る。すぐ横で木下がうんざりしたような表情をしていたがまるっと無視させていただく。 「そんなに好きなら告白すればー?」 「それで断られたらどーすんだよ。恋してる気になってるだけだとか言われそう……」 「野沢なら言うかもー」  げらげら笑う木下を睨む。 「さっしー、野沢こっち見てる」 「さっしーはやめろ」  付き合いのいい友人その2の大島に言われ、僕は笑顔を作って雅人に手を振った。今日も寮のおばちゃん特製のおにぎりとスポーツタオルを用意してきている。ちなみにスポーツドリンクは部活で用意しているのでいらないらしい。 「同じ大学は諦めたから、せめてインパクトに残る存在にならないと……」 「三年同室だったってだけで十分インパクトだろ?」  僕は木下を再び睨みつけた。 「そんなものッ! 大学で知り合う乳ばいーん尻ばいーんのお姉さん方にかなうわけがないだろうッ! とっとと忘れられるに決まってる!」 「うっ、確かに……」 「じゃあさっしーも胸作るとか」 「喧嘩売ってんのか!? 僕は男だああああ!!」  雅人が胸作ってくれと言うならともかく自主的に胸作るとかないわ。 「インパクト……インパクトねぇ……」 「二人でオナるとか」 「男子校あるあるかよ?」  人気(ひとけ)のないところで先輩たちがしごきあってるのを見たことはある。でもあんなの若気の至りで流されそうだし、そもそもどうやって誘うんだという問題もある。 「智さ、卒業までに野沢とやりたいこととかねぇの? ベタだけど思い出づくりとかしてみたらー?」 「思い出づくり、かぁ……」  ギャラリーの手すりに頬杖をつきながら雅人を見守る。 「きーちゃん、オレも思い出づくり」 「他の奴としてこーい」  背後で大島と木下が何やら言い合っていたが僕には関係なかった。

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