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4.卒業式

「そんなヒマあるわけないじゃん! 僕ら受験生だし!」  今さら思い出づくりとか、よく考えなくても夏休みは塾で夏期講習受けるし、夏祭りとか行ってられないし、部活ももう引退だし。  詰んだ、と思った。  同じ部屋ってだけじゃインパクトが足りない。部活に差し入れとかしてたってそうしてるのは自分だけじゃない。 「あー、もうどうしたら雅人の中に残れるわけ? ……いっそ襲うか」  木下にやっぱりバカだと腹抱えて笑われそうな気がしたが、それぐらい僕は追い詰められていた。  で、今思えば変なテンションでいろいろ勉強してグッズとか集めてみたわけで。 「ローション、コンちゃん、紐、あとはー腸内洗浄か」  やってる最中になんかついた、とか笑えないし。けっこう金かかったけど背に腹は代えられない。  決行は卒業式の夜と決めた。雅人がその翌朝に地元に帰るというのはしつこいぐらいに聞いて確認した。 「そんなに俺と一緒にいたいのか?」  戸惑いとからかいを含んだ、それでいて満更でもなさそうな物言いに「最後の夜ぐらいいいだろ」と小首を傾げたら雅人はうっとつまったような表情をした。 「最後も何も……いつも一緒だろ?」 「卒業したら一緒じゃないじゃん。だから卒業式の夜は特別!」  とうとう雅人の顔が赤くなった。照れているらしい。  この反応が、僕に気がある証拠ならいいのに。  *  *  卒業式当日、僕たちは青いブレザーに臙脂のネクタイ、胸元に造花をつけて式に臨んだ。普段はネクタイなんて締めないからこういう時苦労する。でも雅人のネクタイ姿は最高にかっこいいからやり方を覚えた。つまり、雅人のネクタイ係も僕だ。  式が終わり、体育館から出た途端僕はがたいのいい後輩たちに囲まれた。 「先輩! 卒業おめでとうございます」 「先輩にもっとちゃんと指導してほしかったです!」 「先輩! ボタン下さい」  矢継ぎ早に言われ僕は愛想笑いを返すのみだ。入った当時の合気道部は幽霊部員が多かったが、だんだんきちんと出てくる部員が増えて今ではけっこうみんな真面目に参加していて嬉しい限りだ。 「第二ボタンはあげないよ」  受け取ってはくれないだろうけど、第二ボタンは雅人の為にこっそりとっとくことにする。うわ、僕超乙女っぽい。とかなんとか考えてたら同じ合気道部だった堂上に肩を掴まれた。 「川上、やっぱりオマエは俺のことをッ!」 「はい?」 「第二ボタンは俺の為にとっておいてくれたんだろうッ!?」 「ちがうちがう」 「そんなあああ~~~!」 「るせーうるせー! 耳元で叫ぶなああああ!!」 「智の方がるせー!」  結局ほんの少しもしんみりしないまま僕たちの卒業式は終った。卒業して月半ばまでは寮にいることはできるが、大体みんなその夜の謝恩会に参加して翌日には退寮する。僕も雅人も謝恩会まで黙々と部屋の片づけをした。ふと時計を見たら開始の時間が近づいていた。 「雅人、僕もうちょっとだけかかるから先に行ってて」 「……待ってる」 「いいから! 後から追いかけるから席とっといてよ」  そう言って半ば強引に部屋から追い出した。そして準備をしてから、僕は内心のどきどきを隠して謝恩会に参加したのだった。

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