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第6話 人形小豚のハスティ -6-

―……そして、この世界に転生してから九年経った時、獣人の国は代替わりの際に急に新体制になり、奴隷制度は廃止され、奴隷の印のある者は軍に篤く保護される事になった。 受けて側になる軍人の身分は関係無く身請け先の下で、読み書き算術の基礎の習得が義務づけられ、下級使用人としての身分を与えられた。 受ける軍人は印のあった者を最低一人、最高三人まで引取りが可能。途中放棄は本人の死亡か、余程の理由が無ければ受け付けない。 印のあった者は身受けの軍人の庇護の下、希望次第で要件満たせば様々な方向に修学可能。養い手の軍人を殺めるの如何なる理由が有ろうとも重罪。 奴隷を受け入れると五年は国から補助金が出され、もちろん色々罰則等、他にも細かくあるが、大体こんな感じだ。 ―……僕はこの時、二五歳になっていた。 僕を引き取ってくれた軍人は猪の男で、名前を短く"ノーク"と言った。 高身長で硬質な茶髪に意志の強そうな大きいが一重の暗赤色の瞳に釣り上がる眉、実質的な筋骨隆々で厚い肉ダルマなその身体はとても威圧的で、初めて会った時に僕は密かに気が遠くなった。 そして軍団の中で長年突撃隊に勤める彼は、身体の前面に幾つも大小古今様々な傷があり、それも恐ろしくなった一因だ。 下級使用人として仕事を一通りさせてみるというノーク様の方針の下、湯浴みの手伝いとして彼の裸体を初めて見た時、僕は恐怖で思わず涙ぐんでしまった。 痛いのが嫌い……苦手なんだ、僕は。 しかし彼は僕の身体を見て、驚き、顔を大きく歪めたんだ……。 「…………ボディーピアス……。耳以外にこんなに着けてられていたのか……」 「…………」 そう……。僕は二十歳の時、突然に誕生祝だとあの山羊の獣人を含む数名の客と、兎の店主からボディーピアスをプレゼントされたのだ。 もちろんピアスを着ける姿をステージで晒したのだが……。 その際、両耳、両乳首と臍周り、尻尾の下、大きな玉袋……ペニスの裏筋に輪状の連なる特殊なピアスが施された。 このピアスは一度着けられたら一生、外せない。そんな特殊性がある、変質的な代物だ。 だからペニスなんて、その具合から挿入として使えない。相手を傷つけてしまうからね。 主にセックスショー用奴隷の豚の獣人として、成長しても小柄で柔らかい肉ばかり付く僕は、同胞とお客相手にずっと受ける役だけをやらされていたんだ。 それに挿入経験が無い僕のペニスはいまだ薄い桃色で、それも客に好まれていた。 扱くと皮から出て来る初々しいそれが好まれていると知った店の主人は、僕の誕生日にプレゼントと称してペニスにピアスを施して挿入に使えなくしたんだ。 平時では、皮から僅かに見える桃色の先端。全てを露にするには、剥かないといけない。その一手間が、一部の客にとても好まれたからだ。 僕に全てのピアスを施した、客の一人である狐の獣人の魔法外科医の男……"セム"様は殊更そこに拘っていた。 ……僕の予想では、彼は"少年愛"の傾向もあったのではないかと……。 そしてペニスはこんななのに、男達に散々弄られ更にぷっくりした乳首や執拗に穿たれて慣れて柔くなったアナルは色素がやや濃く、僕の白い肌にやけに目立つ。……最悪のバランスだ。 体型も豚の獣人特有な、ぽちゃポヨな体型で柔肉、ほんのちょっぴりぷくりと……胸が少女らしくある。 ノーク様は僕の境遇をあらかじめ理解して、僕を受け入れてくれたと思うんだけど、書類上の情報より現実のインパクトに眉を下げてしまったみたいだ。 頭を優しく撫でられ、「俺が居るから、もう大丈夫だ」と言って抱き締めてくれた。 僕はそうされて、腕の中の温かさにポロリと涙が零れた。 流れたものは温かくて……。 漠然だけど、僕の中に"何か"がゆっくり戻ってくる気がした。 そして、僕の中にロームとの穏やかな、あの"夜"の時間が浮かんで来た。 僕は無言でノーク様に縋り、声無く泣いた。 そして僕はこの時、ノーク様が好きになってしまった。 ノーク様は奴隷受け入れ制度で僕だけを下級使用人として受け入れてくれたみたいで、少し広い彼の屋敷で元から働いている人達に紹介された時、かなり緊張した。 彼の使用人達は僕より大分年上で、仕事の線引きは確りしてきたけど、僕の事を息子や孫の様に扱ってきた。 それから僕はノーク様自身から、読み書きを習っている。 とても忙しいノーク様の時間を使って貰っているのに僕は覚えが悪いから、進み方が遅い……。 でも、ノーク様はそれを許して、丁寧に教えてくれる。 ここでの文字を覚える、勉強は苦手だけど、穏やかな時間。大好きな時間だ。 僕は親に捨てられた"森"出身で、奴隷経歴から、識字が出来無いのはしょうがないと思われている。 ……本当は少し違うのだけど、そこは黙っている。この世界に特殊な転生を受けた僕は、元から両親等は居ないのだが、そこは生涯の秘密だ。 ノーク様の太い指が絵本の文字を指して、読み方と意味を教えてくれる。 または紙に数字を書いて計算を教えてくれる。流石に計算は出来る。 正しく出来ると笑ってくれる。たまにお菓子を自ら食べさせてくれる。嬉しくて頑張れる。 間違えたり、分からないと、噛み砕いて教えてくれる。何とか答えたくて、頑張れる。 ノーク様が家庭教師だったら、僕はとても苦手な教科の試験でもとりあえず頑張って、赤点は避けられそうな気がする。 不思議な自信と高揚感だ……。

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