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第10話 人形小豚のハスティ -10-
「の、ノーク様!!」
「な、何だ!? 君は突然……!?」
「ぅるせぇ! 言葉通りだ!!」
言いながらノーク様はセム様に一気に近づき、僕から彼を引き離した。
そしてよろめくセム様の前で体勢を落として……
「……狐狩りの時間だ」
低い声で言うと、ノーク様はセム様を鳩尾に拳一つで簡単に浮かして後方に飛ばし、痛みに喘ぐ彼を蹴り上げ天上に当て、落下して来たところに背中に足を乗せて押さえた。
「……ッ、ぐァ!?」
「"捕獲"完了」
無表情で言いながら、グイグイとセム様を縛り上げていくノーク様。
……僕……助かったんだよね……?
「ハスティさん!」
そして僕は聞き覚えのある、新たな声へと顔を向けた。するとそこには……
「……ローム……?」
「ハスティさん、俺……いつか恩返しがしたくて……」
う、嘘……何でこんな所にロームが……?
「―……実は、軍の上部からの命令で、俺の御主人様はセム様の事をずっと見張っていたんです。
俺は"はしっこい"からと、おまけ程度で使って貰う事になって……。
そしてハスティさんの誘拐が事が起こってから、最終的な準備を色々していて、助けに来るのに時間が掛かってしまいました。すみません……」
そうだったのか……。
ロームは僕を紐から解放してくれて、そっと近くにあったタオルケットを肩に掛けてくれた。
そ、そうだよ、僕……全裸でとんでもない状況にいたんだよ……。
それをノーク様とロームに見られて……恥ずかしい!
そしてセム様に犯されたのも……ばれてる……し……。泣きそう……。
でも僕は何とか堪えて、ロームにお礼を言った。すると……
「~~……ハスティさんは、俺の恩人……特別な人ですから。……何とかしたかったんです!」
「え?」
「……ローム、突撃隊・隊長のノークの前で後々面倒になりそうな発言は控える。あと、親しくても一般人にそれ以上の情報を与えるな」
ロームに釘を刺す言葉で現れたのは、スコープ付きの長銃を携えた全身真っ白な小柄なオコジョの獣人で、僕に「俺はウィノと言う」と名乗ってくれた。
「は、はい! すみません……。あのですね、俺、今の御主人……ウィノ様に就いて、色々教えてもらっているんです」
「そう。ロームはお喋りで無駄が多い。まだまだ俺の傍で指導が必要。……早くこっち来る。後の処理はノークに任せ、俺達は帰る」
「はい、ウィノ様! ではハスティさん、また後日……」
そう言いながら、ロームは慌てて先に背を向けて歩き出しているウィノ様を追い掛けて行った。
僕は一気に色んな事が起きて解決して、ロームに再会して……混乱する頭に彼らの会話が入ってきた。
「……そうだ! ウィノ様、俺、チョコチップのスコーン焼いたんです。好きですよね? 後でお茶に如何ですか?」
「……集中した後の甘い物の補給は大事だ。頂こう」
あれ? ウィノ様の頬がほんのり赤い……。基調が白な人だから、僅かな変化でも案外目立つ。
こうやって見ると、ロームの方が背が高いんだな……。
顔の下半分が隠れて見えないけど、年齢は僕と同じ位かもしれない。
「大きめなバスケットにパンパンに溢れるくらい詰めてきたんで、たくさん食べてくださいね! さ、早く帰りましょう」
「……そんなに入らない……。今回も一緒に食え。それと強く手を引っ張るな……」
あ。ロームってば、 どさくさ紛れにウィノ様の手を握った……。あれ、わざとだ。全部、わざとだ。
頬を赤めて俯く小柄なウィノ様は気が付いていないかもしれないけど、背の高いロームの笑みがどこか"男"くさい……。
声はあんなにはしゃいで無邪気そうなのに……ロームの中身……あれは全然無邪気じゃないな。
そんな事を考えていたら、急に誰かに抱きつかれた……と思ったら、それはノーク様だった。
彼は僕の顎下に手を添えて上向かせ、少し潤んだ瞳で僕を覗き込んでいた。
「……ハスティが誘拐されて……酷い目にあっていると知った時、俺は……目の前が赤と黒に変わった……」
「のぉく……さ、ま……」
「怖くて辛い思いを一時でもさせて悪かったな、ハスティ……」
「ノーク、さまぁあぁあっ……!」
僕は幼子みたいに、感情のままにわんわん泣いた。こんなに解放した泣き方……した事無い。
そしてそんな僕をノーク様は抱きかかえてくれて、一緒に来た部下の人にセム様の連行を指示すると「とりあえず屋敷に帰ろう」と現場を後にした。
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