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第12話 人形小豚のハスティ -12-

―……セム様は魔法外科医を剥奪され医院は閉鎖、長く牢獄に入れらることになり僕の前に二度と現れないと約束をさせられた。 そして……再び穏やかな日々を過ごして、新体制になって三年目のある日、何とアルハームとヴィルム様が結婚するという手紙が突然ノーク様の屋敷に届いた。 驚いたけどお祝いの言葉を返してから少しして、『薔薇の教会』と呼ばれる場所で式を挙げる、と綺麗な招待状が僕とノーク様に来たんだ。 僕はアルハームに呼ばれ、ノーク様はヴィルム様に呼ばれたのだ。 そこで再会したアルハームは、以前より髪を長く伸ばしていた。 ……正直、今度は"柔らかさ"が加わって……綺麗。 格好良くて、綺麗で色気があって、素敵な番のヴィルム様ととってもお似合い……。 僕も……アルハームみたいになりたいな……。好きな人と"番"になりたい。 僕がそんな夢を見始めた時、ノーク様がウィノ様に呼ばれた。 ノーク様は僕に先に教会内部に行っているように言うと、ウィノ様の方へ歩いていってしまった。 「―……ノーク、ハスティとの進展を手伝ってやる……」 「それはどういう事だ、ウィノ?」 急な上から目線の物言いに、ノークはウィノを威圧的に見下ろした。 「いい加減、ハスティを確り捕まえろ!!」 「な、何で今度は急に怒鳴るんだよ……」 「今日もロームはハスティに会いたがって、俺に着いてくと騒いで置いてくるのが大変だった。 手間の掛かるローム特製の"菓子の城"を強請って、何とか抑えたが……」 「……はぁ!? 菓子の城!?」 「……ロームの作る菓子の城は繊細で、甘くて、美味いんだぞ! 普段は俺の誕生日にしか作ってくれない……。コホン。……まぁ、それは置いておいてだな。 獣人の価値観により、"番"はとても大事にされる。既婚者に対する姦淫は、いかな身分に対しても重罪だ。……だから基本、一度番えば誰にも邪魔されない」 「…………」 「……俺が言いたい事、分かるな?」 「……ぁ、ああ、分かる……」 小柄な背だが上に伸びをして、鋭い眼光でノークを睨むウィノ。このオコジョはとても好戦的だ。 このオコジョこそ、"ある者"を取られたくないと、色んな可能性を潰すのに必死なのではないか? そんな考えが浮かび、ノークは自然とそれを口にしていた。 「……ウィノ、お前……ロームが好きなのか? ロームの対人関係をやけに気に掛けるな」 「……!!! は? ぁ? ぉ、おれはだな……! ぉれは……、……ロームは……ロームのこと、は……」 顔を真っ赤にして、大きな黒い瞳を涙で潤ませ、先程とは違う光りを瞳に溜め始めたウィノ。正直、すごく……ものすごく可愛い。 そう……顔の半分を服やスカーフで覆っているのは、スナイプする時に呼吸の流れを抑えて集中を増させる役割が主だが、「可愛い」と言われない為の彼なりの虚勢策なのだ。 この冷徹で優秀なスナイパーの必死に隠している恋心を突いてしまった事に、ノークは何だか悪い気がしてきた。 それにこのまま喋らせると、「お前が他にハスティを取られない様に、手伝ってやるんだ。ロームを気に掛けるのは、まだ指導期間中だからだ。好きだからじゃないッ!」と拗れていきそうだと、慌てて声を出した。 「あー……まぁ、ウィノ、俺、頑張るな! 何だか分からないけど、サポート宜しく」 「……任せろ」 ノークの言葉にウィノは納得した様で、詰め寄っていた身を引いて鼻を一度"スン!"と鳴らすと、サイレンサースコープ付きの愛銃を仕舞っている長袋を肩に掛けてどこかへ行ってしまった。 こんな時にまで、武器を手放せないウィノに、何だかモンヤリとした感情がノークの中に湧きそうで、彼は慌ててそれに蓋をした。 そして残されたノークは、一人「ふー!」と深く勢いのある息を吐いて、のろのろとその場を離れ、先に教会内部に行っているハスティの元へ向かった。 小さいが美しく装飾が施された聖厳な教会内部に入り、ノークは思わずヴィルムの趣味の良さに感心した。 そして自分と着飾ったハスティをこの教会内部に配置して想像するとゾクゾクするような感覚が内部に生まれ、ノークは慌てて思い描いた内容を手放した。 頬が熱い。先程ウィノにあんなことを言われたから、意識してしまったのだろうか……? ノークはそんな考えは止めようと決め、ハスティの姿を探した。 するとハスティは親族席と友人席の内、友人席に座っており、自分の隣りにノークが座るとニコリと微笑んできた。

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