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第13話 人形小豚のハスティ -13-

―……僕はその姿に驚いた……。 何と、アルハームの親族席に只一人、あの老犬紳士が……。 僕は思わず「お久し振りです……」と話し掛けていた。 彼と話すのは、実はあの馬車での"教育"以来だ……。 忘れられていると踏んでいたのに、「あのマイクロブタの子か。久しいな」とアッサリ返された。 僕は失礼を承知で、新体制になって"店"が無くなった今の彼と、何で彼がアルハームの親族席に据わって居るのか聞いた。すると…… 「新体制になり、あの様な商売が無くなっただけで、他に色々あるワシはどうってことない。 毎朝出される朝食のサラダのミニトマトが一つ減った。その程度だ。量が足りなければ、他のを新しく皿に乗せれば良い。 そしてヴィルムは古くからの友人であり、アルハームはワシがたまたま森を散策している時に拾って……市に卸さずに直に店で大事に育てた子なのだ。 だから、ワシはここに座って居る」 老犬紳士自身がアルハームを森で拾った!? 「ワシも気に入っている、二人が好き合い結ばれるのは、喜ばしい事だ……。 後でワシが祝いにサラダを盛って、アルハームに与えよう」 そう言って僅かに目元を緩めた彼は、只の"孫を見つめるお爺さん"な気がした。 そして始まった式は素晴らしく、二人はとてもお似合いで綺麗だった。 鹿の司祭様の誓いの言葉に答え、口付けを交わして……。 この式の殆どはヴィルム様関係の人だ。アルハームが呼んだお客は数人で、その中に僕が入っているのが堪らなく嬉しい。 教会に集まった全員が二人の結婚を祝福して、とても素晴らしい事だ。 僕は二人の誓いのキスの時に、感激に震えて思わずノーク様の服の裾を握ってしまった。 その僅かに引く力にノーク様は反応して、僕を見た後、その手を大きな手で包んでくれた。 誓いのキスの後、主役の二人を残して僕達は外に出て、恒例のブーケ投げがされたのだけど……。 アルハームの投げたブーケが、何かに不自然に数度弾かれる様に浮き、数多の手を逃れて最終的に僕の手に落ちてきたのだ。 ―ポス…… 「……え?」 ブーケを持つ僕へ、視線が一斉に集まった。驚きと落胆と……様々の表情の視線が僕に集まり、僕は一歩下がった。 「あ……。僕がブーケを……」 ノーク様はブーケを持つ僕を見て、少し驚いた顔をしてから表情を引き締めて、僕の手を引いてその場から離れた。 後方から色々声が聞こえてきたけど、ノーク様は全て無視して教会内部に居たリスの獣人の神父様にお願いして赤い薔薇の花を九本、短めの花束にしてもらっていた。 神父様はノーク様の突然のお願いに、快く祝福の言葉を乗せて薔薇の花を譲って下さった。何でも、たまに"お願いされる"事なのだそうだ……。 そして教会内の静かな庭園の中を少し歩き、青い薔薇の蕾がある場所で手を放して僕の方を向いた。 一文字の口……眉間に少し出来た縦線、瞬きがあまり無い瞳…………目元が赤い……。 何だろう? すると、意を決したようにノーク様が口を開いた。 「……俺と結婚してくれ。ハスティ、愛してる。……指輪は……今度、つくりに行こう」 「!!?」 何と! ノーク様からプロポーズされた……! ノーク様と恋人同士だけど、僕の経歴を考えると……その先は無理だと思っていたんだ……。 「性急で悪いが、返事をくれないか。……出来れば、その…………色良いものを……」 「……はい。お受けします、ノーク様……。僕も……貴方を愛しています……」 僕は赤い薔薇の花束とブーケを口元まで掲げて、顔を真っ赤にしながら何とか気持ちを伝えた。 本当は嬉しさに涙が出て、その場に倒れそうになったのだけど……。 早速、アルハームのブーケから夢の様な幸せを分けてもらえたみたいだ。 ノーク様からの突然のプロポーズを受けた後、ノーク様はウィノ様に話しがあるから少しここで待っていて欲しいと、僕を教会の庭園にあったベンチに座らせてどこぞへ行ってしまった。 僕は言われた通り、花束とブーケを膝の上に置いて、ベンチから見える薔薇を愛でていた。 すると、園芸道具を持ったリスの神父様に声を掛けられた。 「おや、薔薇の花は貴方にでしたか。花束を持っているという事は、言葉を受けたのですね」 「えっと……神父様、言葉とは……?」 「……九本の薔薇には、"いつも貴方を想っています、いつも一緒に居て下さい"という意味があるのですよ」 「!!」 「とても想われていますね」 ……視界が潤んだ。 僕の中で、この教会がますます重要な建物になった。

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