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第17話 Clover's March 『砂塵の薔薇 -愛情-』 -2-

―……この男性のみの会員制の高級社交場で、『ここに集う者を嗅ぎ回らない』、という仲間意識の強い暗黙のルールがある。 そんな場で知り合った犬獣人の老紳士……"ゼイリア・ナシュ・ヴァンドル"。 ゼイリア老……彼の雰囲気と話……、俺はとても気に入った。 それは相手もそう感じてくれたみたいで、とても喜ばしい事だ。 年齢差は大きいが、俺は彼と友人と呼び合う仲に直ぐになった。 一見、シュナウザー種の特徴である口ひげが柔らかい雰囲気の彼だが、その目はいたく冷めて鋭いものだった。 名乗られた時、黙っていたが彼の家名は昔から表にも裏にも……良くも悪くも知れ渡っている"有名人"だと俺は直ぐに気が付いた。 しかし、俺は彼の素性が分かってもそれを出さずに、「ヴィルム・ナルトナです。こちらこそ、宜しくお願いします」と愛想良く答えた。 ……そう、ここでの暗黙のルールは、ここを穏やかに利用したい者には、『絶対』、なのだ。 それに、こんな上流の貴族な人物と俺みたいな中流貴族の五男坊軍人が気軽に会話が出来るなど、普通は考えられない……。 普通は考えられないが、俺とゼイリア老の会話はいつもとても弾んでる。 ―……"気が合う友人"、それで良いじゃないか。俺は自分の位置が気に入っている。 そして暫らくして彼は、俺に自分の宝物の一つを見せてくれた。 それがライオンの獣人の男性体である、"アルハーム"だ。 『この社交場を利用出来るのは男性のみ』……これは暗黙ではなく、この場の基本中の基本のルールだ。 これはここに来る者の内心の理由は何であれ、"異性から解放されて同性だけの会話を楽しみたい"、とういう思いで作られた場だからだ。 女だって、女同士だけの"茶会"を開くだろう? 男だってそうした場……サロンが欲しいのだ。 そしてアルハームは男性だ。だから、ゼイリア老が美しい宝石の様な彼を"女"の様に侍らせながら、このサロンで会話や様々な遊戯を楽しんでも、誰も何も言わない。 ルールは強い。守っていれば、平等に確り正しい仕事をしてくれる。 アルハームがゼイリア老にとってどういう存在であれ、男性なので何も問題無いのだ。 少し彼と会話をしてみたが、見た目の華美さに反して穏やかな気風を感じた。 俺は彼とも直ぐに仲良くなれた。 彼が俺を見て、深い茶色の真っ直ぐな瞳に俺だけを映し温かく微笑む瞬間、俺も口角が自然と上がった。 ゼイリア老はそんな俺達の隣りで静かに紅茶を飲んだり、酒を飲んだり……煙草はしないから、とにかくそうして少し崩し気味にゆったりしていた。 老が普段纏っている雰囲気はまるで一枚の分厚い氷の様なので、その変化が少し面白かった。 こう言っては自惚れ……かもしれないが、アルハーム以外に俺の前でだけ、老は少し気が緩むようだ。 老の隣りで、彼の自慢の宝石を好きに眺め、癒される権利を貰った気がした。

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