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第18話 Clover's March 『砂塵の薔薇 -愛情-』 -3-

―……とある夜、俺は少し親密な感じで巻き長毛種のネズミの獣人の青年と酒を楽しんでいた。 ソファーに座り、"近い"と思われる雰囲気で、その後の展開も容易く想像出来る距離。 まぁ、実際……お互いそういうつもりだと、分かる視線と仕草でいた。 そんな楽しみ方をしている時、ゼイリア老がアルハームを連れてサロンに遊びに来た。 俺は視線だけ老へと向け、挨拶めいたものをした。 すると老も心得ているもので、俺へ軽く視線で返し、スタスタと自分の行きたい方へ歩いていった。 しかしそんな彼の後に続くアルハームは、視線は視線だが、俺を見る時に眉間に力を込めた。 アルハームが俺を睨んだ……? そして俺にもたれていた青年が、"ピクリ"と一瞬身体を強張らせた。 一瞬だったかもしれないアルハームの表情が、俺は目蓋の裏に焼きついて離れなくなった。 そんなアルハームの視線が気になり、俺は目の前の彼とその後、少しだけ酒を飲んで終わりにした。 青年は俺に別れを告げる時、どこかを気にして、俺が特に強いる態度でないのが分かると、どこか安堵した雰囲気に変わり去って行った。 残された俺は、少し温くなった酒を口に含み、"気"の抜けたそれに自身を重ねてアルハームの視線を反芻した。 ―……アルハームの視線に……気が削がれた……? 何で……。 そんな気の抜けた俺の元へ、アルハームが一人でやって来た。 軽く挨拶をされ、俺の前に新しい酒が置かれた。 「―……なぜ、俺の元に……? ゼイリア老は……?」 「……ゼイリア様に無理を言って、ヴィルム様の元へ行くのを許してもらいました」 「……?」 「ヴィルム様に……会いたかったんです……」 「……は?」 「俺……、ゼイリア様のように話も中身も深くないのでヴィルム様は退屈だと思いますが……。俺と時間を共有して下さい……」 そう言って隣りに座り、俺に美しい笑顔を向けながら、周りへ無差別に威圧的なものを発するアルハーム。 顎の下に手を置かれて、覗き込まれていないのに、「逃がさない」とそうされている気分だ。 ……俺は彼に食われる……のだろうか? そしてその時、俺の後ろから低く老齢な声が…… 「―……アルハームよ、ワシは先に帰る。お前はヴィルムに任せる」 アルハームの態度に内心驚いていたら、もっと驚く事を老が告げ、帰って行ってしまった……。 ……そして訳が分からないまま、一方的にアルハームを任されてしまった……。 こんな美しい男をの時間を、俺は所有者から許された。 でも、何で? アルハームも、老も、一体急にどうしたと言うのだ。 俺が少し張り付いた笑顔で「……だ、そうだ。アルハーム、宜しく」と取り合えず彼に声を掛けた。 するとアルハームは「はい。宜しくお願いします」と言って、俺の手に自身の手を重ねてきた。 俺はその手を見て、彼の顔に視線を移し、スローモーションの様に動く彼の唇から発せられた声に脳が揺さ振られた。 「……"奥"の部屋に行きませんか?」 ―……ここには色々な男が来る。 癒し、趣味、談話、商談、…………色事。 奥の部屋でアルハームは俺と、どの項目を選びたいのか……。 「良いぞ。行こう」 俺は重ねてきたアルハームの手を掴み、ニヤリと笑って立ち上がった。 カウンターのマスターに"奥"を利用したい旨を告げ、鍵を受け取り部屋に向かう。 手は繋いだままだが、アルハームは離すものとは真逆に握り込み、機嫌が良さそうだ。 俺と彼……アルハームに周りの視線が集中するが、奥に行ってしまえばそんなもの全て無くなる。 鍵に示された部屋に二人で入り、施錠をして部屋のソファーに座った。 「……アルハーム、俺を奥に誘って何の用だ?」 「ヴィルム様とゆっくりしたかったんです」 「それなら、奥でなくても良いのでは?」 「こっちの方が、ヴィルム様を独占出来ます。俺がヴィルム様をゆっくり独占したかったんです」 「……そうか。まぁ、確かに? この空間の方が向こうで見せびらかしながらより、お前とゆっくり出来るな」 「はい。……ヴィルム様は……俺を"見せびらかし"たくない……です、……か?」 「そうだな。"優越感"ではなく、……言うと、お前には常に"癒し"を求めている。そんな俺は、……変か?」 俺の突然の言葉に、アルハームは一瞬瞳を大きく開き、素早く横に頭を振った。 「なら、アルハーム、俺を癒してくれ」 そう言って両腕を開いた俺に、アルハームが飛び込んできた。 嬉しそうに甘く低い声で俺の名を何度も呼び、存在を確かめる様に背中をさすって来た。 そして……唇を重ねられた。 そうしながら服の中に手を這わせ、今度は素肌を撫で始めた。

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