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第23話 Clover's March 『ユキシタの二人 -再生の季節-』 -1-

<猿×オコジョ> 「―……ウィノ様、お帰りなさい。お疲れ様です」 「ああ……」 上司の結婚式から帰ってきた俺を出迎えてくれたロームを見て、ハスティとノークの事を思い出した。 ノークの話しだと、ハスティへのプロポーズに成功したという事で、こちらも目出度い。 ま、ノークのは俺が無理矢理切欠を作ったのだが。 ああ、それでハスティとロームの関係だが、同じ職場で働いていた奴隷同士……とても言っておこうか。 奴隷時代のハスティは小さく愛らしい容姿から未だ当時の彼を"知っている"人物達から人気が高く、現在も密かに特別な保護対象奴隷だ。 最近では街中で突発的に誘拐し、監禁しようとした熱狂的な信者までいたくらいだ。 この熱狂的信者……こういう奴等の思考と行動力は、本当にヤバい。第一……。 おっと……危うく昔の記憶に触れそうになった……記憶を引っ込めよう……。 まぁ、しかし、ノークとハスティが結婚……番同士になる事で、こんな事件は無くなるだろう……。 獣人社会で故意に番を奪う行為は、重罪だからな。どんな地位にいても、それは変わらない。こういう平等は良い事だ。 彼が勤めていた高級会員制クラブに余裕で通う様な奴等は地位的に上等なゲスが多いが、他人の皿に危険を犯してまで食べ物を摘まむ低能バカはそうそういない。 上位のレベルの高いゲス達の中で、低能バカは生きていけないのだ。 だから、今後は……まぁ、大丈夫だろう……。 「見て下さい、ウィノ様。リクエスト通りに……お城のケーキにはほら……ウィノ様のメレンゲドールです」 俺はロームの言葉に従い、彼に強請った菓子の城を見た。 城への道の上に、俺を模したドール。頭には王冠が被せられており、王様設定の様だ。 城内部はマシュマロと三段ムースで、それを囲う市松クッキーの壁に砕いたビスケットの"砂利"、クラッカーの歩道、マーブルチョコの列が脇を固めている。 パウンドケーキの屋根には、ふわふわした綿菓子が配置され、少し幻想的だ。 そして緑のスポンジの上にはパイ生地のリーフ、花を模した色付きチョコレートに、果物の形をしたカラフルな透明なグミ。 ……市販品も取り入れ、様々な菓子で作られた城はとても賑やかなのに…… 「……大きな城は嬉しい。ありがとう、ローム。でも……一人は寂しい……」 今日……上司の結婚式に出席して、幸せになる二人を見たから? それとも、ノークの恋愛を手伝ったからか……? 昔から……一人が良いのに、今は一人が寂しい……。ローム……。 思わずロームを見上げる。 俺の意図を察したのか、ロームが少し試す様に小首を傾げて口を開いた。 「……なら、俺を住まわせてくれますか?」 「……ロームを? ロームなら、良い。……許可する」 ロームが遊びでも、そう聞いてくれたのが嬉しい。思わず口角がゆるりと上がった。 俺が笑ったのが良かったのか、ロームも笑顔を俺に向けてきた。 「良かった! 俺、自分のドールも作ってみたんです!」 そしてロームは俺のメレンゲドールの隣りに、自分のを置いた。 「ローム……このドール……は……?」 声で動揺してるのがばれる……。でも、これは……。これは…… 「ウィノ様の頬にキスする俺です」 「~~~~~!?!!?」 そう言って、ロームは俺の隣りに来て身を近づけてきた。 「ウィノ様、俺、貴方にキスしたいんです」 「……ろ、ローム……?」 「ウィノ様が好きなんです」 男の顔になったロームが俺を見ている。 僅かな少年らしさが消えた、真剣な青年の顔……。

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