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ホットミルクに蜂蜜 31話

「す、すみません!」 直ぐに謝ったが謝るだけでは済まない事態になるのは明らかだった。 「大丈夫ですか!」 側にいたスタッフが形相を変えパソコンを覗き込む。 「データは?」 他の男性スタッフも慌てている。 西島は言葉を発さずにパソコンを弄っていたが、 「…………くそ、だめだ!」 落胆したようにそう言った。 碧はその風景をどう動いて良いか分からずにその場に立ちすくんだまま。 「部長、これ、月曜までですよ!」 「わかってる!」 西島は眉間にシワを寄せ返事を返す。 「ちょっと出でくる」 西島はカツカツと足音を響かせ、出ていった。 その足音が普通じゃないのをその場に居た者に無言で教えていた。 緊急事態なのは碧にも斉藤にも分かる。 何よりも、コーヒーをこぼした碧は真っ青で小刻みに身体を震わせていた。 「どうしよう」 そう言葉にしたとたん、不安が一気に身体中を駆け巡り、視界が涙でゆがむ。 「あ、碧のせいじゃねーし!俺がぶつかったからだよ!」 涙目の碧の両肩を掴む。 「そうよ!私がパソコンの近くに置いたんだもん」 女性スタッフも碧を気遣った。 「斉藤、碧ちゃん、医務室に連れて行った方がいいよ。多分、仕事できない」 先輩スタッフが斉藤にそう言う。 斉藤も今の状態の碧はきっと無理だと理解し合いし、一緒に医務室へ。 碧を気遣い、女性スタッフは周りの掃除をしながら碧と斉藤を見送る。 ◆◆◆◆◆ 「碧ちゃん、どうしたの?」 ぐすぐす泣く碧を見て神林は驚く。 「先生、ちょっと碧を休ませてやって」 「いいけど、何?どったの碧ちゃん?」 神林の大きな手が頭をぐりぐりと撫でた瞬間、碧はポロポロと涙を零した。 どうしよう。 きっと、大事なデーターだ。 西島がずっと他のスタッフと進めてたのを知っている碧は自分がした事がどんなに大変な事か 分かっているから涙が止まらないのだ。 ただでさえ仕事出来ないのに足をひっぱった! その後悔がグルグルと身体をかけめぐる。 神林がホットミルクを出してくれたが碧は俯いたままに袖で涙を拭うだけだ。 ある程度、斉藤に泣いている理由を聞いた神林は、碧の頭をよしよしと撫で、 「碧ちゃん、心配しなくていいよ。碧ちゃんのせいじゃないから」 と慰める。 「でも、データーがあ」 ぐしぐしと鼻をすする。 「千尋は消えたデーター復元出来るから大丈夫だよ。あいつ、仕事だけは出来るからさ……恋愛はからっきしだけどね」 ジョークを交えながらの言葉に、大きな瞳で神林を見る。 「千尋は消えたデーターより泣いてる碧ちゃんが心配かも知れないな」 フフッと笑う神林に少し元気を貰った碧。 「顔を洗ってきます」 「うん、また戻っておいで、ほら、斉藤くん連れて行って!」 斉藤に連れられて出ていく碧を心配そうに見送る神林だった。

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