◆◆◆◆◆ 「本当に僕がみたい映画でいいんですか？」 映画館が入る大型ショッピングモールに着き、碧は不安そうに西島を見あげる。 「うん、いいよ」 ニコッと笑い返事をしながらも西島は内心微妙に固まっていた。 碧が観たい映画は、大人気アニメ……… ちびっ子がわんさかいる。 まさかのチョイス。 まあ、碧らしいとは思う。 「僕、幼稚園の頃からずっと見てて」 幼稚園………俺は小学生だったぞ！しかも高学年。 「俺も小学生の頃見てたな」 「ほんとですか！」 碧は凄く嬉しそうに喜ぶ。 西島も見ていた事が凄く嬉しいのだ。 そんな碧をみて、アニメでもいいな。なんて思う。 ◆◆◆ 映画館の中は結構、大人もいた。 まあ、子供の保護者が多いけど、大人が自分だけだったらなんて心配していた西島はホッとする。 碧にコーラとポップコーンを買い与え、自分はコーヒーを飲む。 照明が落ちて、館内が薄暗くなる。 碧はドキッとした。 館内が薄暗くなった瞬間、西島が手を繋いできたのだ。 ち、ちひろさん……… ドキドキしながら西島の方を見る。 「誰も気づかないよ」 小声で言われ、碧も手を握りかえす。 デートみたいだ！ なんて、ドキドキしながら、あっ、デートだもんね。なんて1人納得して顔が熱くなる。 西島の手は指を絡めてきて、高校時代に友人達が騒いでいた恋人繋ぎみたいになった。 ち、ちひろさんと恋人繋ぎ……… やばい！ドキドキします！ 碧は映画どころじゃなくて、西島ばかり気になる。 ずっと、手を繋いでいたい。 碧も力を入れる。 ◆◆◆◆ 映画の間中、手を繋いだままだった。 碧もずっと、ドキドキしたまま。 館内が明るくなると、碧の赤い顔が西島の目に映る。 手を繋ぐだけで真っ赤とか………キスもお風呂も……裸で抱き合うのもしてるのに……本当にウブな子なんだな。って感動してしまう。 「ドキドキして………映画、あまり見てなかったです」 照れたように言う碧。 「ごめん、ドキドキさせて……もう一回みる？」 「い、いいえ！いいんです。僕が勝手にドキドキしてただけだもん。」 えへへと笑う。 あー、くそ！抱きしめたい！ そこをグッと我慢して西島は碧を連れて館内を出る。 なんとなく小腹が空いた西島は、「軽く何か食べるか？」と碧を誘う。 「はい！」 西島の後ろをちょこちょこ着いてくる。 まるでヒヨコ。 笑いたくなるのを堪える。 「ちひろさん、僕、ジュース買ってきます！」 広いフードコートで席に着く西島に碧はそう言う。 「いいよ、俺がいこう」 「ダメです！ちひろさんには映画代とポップコーンとか出して貰ったんだもん！ジュースは僕が買います！」 力む碧。なんか、可愛いなあって西島はジュースを奢って貰うことにした。 ◆◆◆◆◆ ジュース………って、ちひろさんはコーヒーかな？ コーヒー飲んでたもんね。2杯目大丈夫かな？なんて考えながら碧はコーヒーを買いに列んだ。 前に列ぶ女性が鞄から財布を出している最中に何かを落したのが見えた。 何だろうと目で追うと定期券。 碧はそれを慌てて拾う。だって困っちゃう！ そして、女性の肩を指先で軽く突くと、 「あ、あの……これ、落としましたよ」 定期券を差し出す。 「わあ、ありがとう」 振り向いて碧を見る女性は凄く綺麗だった。 わあ！綺麗な人……夏姉ちゃんと同じ歳くらいかなあ？ 凄く綺麗で碧は照れた。 女性はコーヒーを買うと、碧に手を振って歩いて行った。 ◆◆◆◆◆ やっぱ、苺かなあ？ 西島はドーナツを前に悩んでいた。 碧が飲み物を買いに行ってくれたので、甘い物をと思ったのだ。 そんな西島の肩を誰かが叩いた。 碧かな？と振り向く。 「ちーちゃん何やってんの？」 「げー！ミサキ！」 肩を叩いたのは碧ではなかった。 「ちょっと、何その嫌そうな顔は！」 「悪いな、俺は正直者なんだ」 「あっそ……ちーちゃん甘い物好きだっけ？」 ミサキと呼ばれた女性はドーナツを指さす。 「俺んじゃねーし！って、いうかちーちゃんと呼ぶな！」 「いいじゃん、ちーちゃんだもん………あ、さっきね、すごーく可愛い子に定期券拾って貰ったの！男の子だと思うんだけど、目くりくりで色白で……ああ、こんな弟欲しい！って興奮した」 ミサキは目をキラキラして話している。 もう慣れたけど……コイツのショタ趣味どうにかなんないかな？ 西島はため息をつく。 「なに？そのため息ー！あー、きっとあの子ならため息とかつかないでお姉ちゃんの話聞いてくれるんだろうなあ」 「悪かったな、話聞かない弟で！」 西島はプイと横を向き、 「人と待たせてるから、じゃーな！」 と無愛想にその場を去る。 「ちーちゃんも黙ってたらイケメンなんだけどなあ」 ミサキはブツブツ文句を言いながら西島を見送った。 ◆◆◆◆◆◆ 「あ、ちひろさん良かった！」 なんだか半泣きの碧が西島を見つけて名前を呼んだ。 「席にいなかったから」 半泣きで不安そうな碧の顔をみたら、不機嫌が直ってしまった西島。 「ごめん、ドーナツ食べるかな？って」 そう言ってドーナツが乗っているトレイをテーブルに置いた。