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僕の初めてを貰ってください。 19話
◆◆◆◆
西島が課に足を踏み入れた瞬間。
「部長!お見合いして結婚するって本当ですか!!」
とスタッフ全員に詰め寄られた。
「はあっ?」
こいつらは何を言っているんだ?
妙な迫力がある。ちよっと、たじろぐ。
「専務と話してたでしょ!」
偶然に立ち聞きしていた女性スタッフが続けてそう言う。
「専務?………ああ、あれね。結婚するのは姉だけど?」
「姉?」
全員に聞き返され頷く西島。
そして、次の瞬間。
「なんだあー!もう、ビックリしたあ」
と笑いに変わった。
全く……なんなんだ?と 西島は自分のデスクへと戻る。
椅子に座るとメールをチェックする。
碧からの返事はまだない。
見れていないのかな?
少し心配しながら、そして、不安になりながら西島は碧からの返信を待っていた。
◆◆◆◆◆
「斉藤はどうした?」
席に斉藤の姿がないのに気づいた西島は近くのスタッフに聞く。
「それなら碧ちゃんを………あっ、やば!斉藤くんも碧ちゃんも誤解したままだ」
お見合いして結婚するという嘘の情報を信じたままの2人を思い出し、西島に聞かれたスタッフは慌てる。
「誤解?」
「そうです。部長がお見合いして結婚するって聞いて碧ちゃんショックそうで、斉藤くんも」
「はあああ??」
思ったよりも自分が出した声にビックリした西島は直ぐに咳払いをした。
「信じたのか佐藤は?」
「たぶん……元気なく出て行ったから。あ、部長、碧ちゃんも戻って来ないんですけど」
「佐藤は用事で出てる」
「えっ?そしたら碧ちゃんは誤解だって知ってるんですか?」
「いや、……用事は総務のお使いだから」
誤解してる?
だから医務室に来なかった?
いや、違うな。話したのはさっきだから。
でも、誤解してるとしたら………碧。
あああ!!もう、噂好きな奴らめ!!
確かめもせずに広めやがってえええ!!
西島は、早く仕事が終わらないかと焦ってしまう。
いや、それよりも碧が連絡くれたら。
そう悩んでいる時に、
「西島部長!!どーゆう事すか!!」
と声を張り上げて斉藤が戻ってきた。
「うるさい!結婚なら、姉の話だ!確かめもしない噂を信じるな!」
と怒鳴り返す。
「えっ?姉?えっ?あれ?」
斉藤は周りのスタッフを見るがスタッフ達は申し訳なさそうに下を向いていた。
◆◆◆◆◆◆
碧はぼんやりと長椅子に座っていた。
意外と早く、頼まれた事は片付いたのだが、戻る気にはなれなかった。
ずっと、西島の事ばかり考えていたのだ。
ちひろさん………
僕は子供ですか?
結婚するんですか?
信じなきゃいけないのに涙が零れそうになる。
「碧ちゃん」
肩を叩かれ、顔を上げた。
「佐々木………部長………どうして?」
碧の前には佐々木が立っていた。
佐々木の顔を見た途端、ポロポロと涙が零れてしまった。
「碧ちゃん、車で来たからさ、車に行こう」
佐々木は碧の頭を撫でると、手を掴み立たせた。
人が少なくて助かる。
佐々木はなるべく泣いてる碧が見えないように彼の前を歩く。
◆◆◆◆◆
「ほら、碧ちゃん、コレ飲んで」
駐車場に着くと、助手席に碧を乗せ買ってきたミルクティーを渡す。
泣いてくしゃくしゃな顔。
子供みたいで可愛く見える。
「だいぶ、落ち着いたみたいで良かった。」
佐々木は碧の頭を撫でる。
「すみません」
ようやく絞り出した声は本当に消えそうだった。
「いいんだよ。どうせ、俺は昼までだったし、どうする?お家送ってくよ?」
そう聞くと碧は首を振る。
「だめです」
心の準備が出来ていないから西島に会えない。
「碧ちゃんが西島と付き合ってるの知ってるよ?西島んちに居るんだろ?送っていくから」
佐々木は運転席に乗り込むとエンジンをかける。
「だめなんです」
碧は佐々木の方を見て、ポロポロとまた涙を零す。
もし、結婚が本当だったら………
そればかり考えてしまう。
「ぼくが……子供だから」
何度も服の袖で涙を拭くけれど、涙は止まらない。
「とりあえず……俺んち来る?いつまでもここに居れないし」
碧はその誘いに頷く。
1人で居るのは嫌だった。
もっと、もっと、嫌な事を考えてしまうから。
◆◆◆◆◆
斉藤も今日は早上がり希望を出していた。
佐々木のシフトにさり気なく合わせているから。
スマホに佐々木からラインが入る。
『買い物頼む』
そんな内容で、買ってきて欲しいリストが書いてあって、1番下にコンドームとあって、思わずニヤついた。
ゆうちゃん中出し好きなくせに!
そう呟きながら了解と返信する。
◆◆◆◆◆
碧に何度電話したか分からない。
西島は携帯を見つめてため息をつく。
時間的には向こうに着いて、用事も済んでいるであろう時間帯だ。
凄く気になる西島は、碧が向った会社へ電話を入れる。
数コール目で繋がっだ電話で碧の事を聞く。
返ってきた答えはとっくに帰っている、だった。
お礼を言って電話を切ろうとした時に、
「そちらの会社の方が迎えに来てましたよ」
と付け加えられた。
「えっ?誰ですか?」
西島は驚いた。
誰が?そう考えたが直ぐに頭に浮かんだ顔があった。
「えっーと、佐々木さんですね」
やっぱりいいいい!!
「ありがとうございました」
西島は電話を切ると佐々木の携帯へと電話をかける。
◆◆◆◆◆
「碧ちゃん、ゆっくりしていいよ」
部屋に着き、碧を部屋に上げた。
「はい」
碧はちんまりと膝を抱えるように座る。
「碧ちゃん、猫みたいだね」
丸くなる姿は子猫みたいだ。
「じゃぁ、お悩み相談しようか?碧ちゃん、西島の事で悩んでるんでしょ?」
佐々木に聞かれコクリと頷くと、碧はぽつり、ぽつり、話し始める。
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