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僕が寂しい時も側にいます。3話

「佐々木部長が僕に勇気をくれたので」 頭を撫でられた碧は照れたように微笑む。 「そっか、そっか」 ぐりぐりと撫で続ける。 「あ、あの、僕、佐々木部長に何かお礼をしたいです。えっと、あの、何か……」 お礼をしたいと考えてみるが、自分より大人の佐々木に何をして良いか分からない。 そう申し出る碧のシャツの裾を掴み、ペロンと捲り、 「じゃあさ、このシャツちょっと脱いでみようか?オジサンにキスマークの数を数えさせて」 とニッコリと頬えんだ。 いきなり捲られて、悲鳴を上げるのを忘れた碧。 そして、それと同時にゴツンと鈍い音。 「何をしている!」 拳を握り怒鳴る西島。 碧の側に素早くいき、シーツで彼の身体をカバー。 「いてー!なんだよ、ケチ」 文句を返す佐々木。 「全く、油断も隙もない!」 「いや、今のはゆうちゃんが悪いかな?」 自分だって、捲りたいのを我慢した斉藤がそう言う。 「お前、斉藤の前で良くセクハラとか出来るな?付き合ってんだろ?」 西島は呆れ顔。 「碧ちゃんは特別。だって、可愛いから星夜も見たいよな?」 「うん、……あっ、いや!」 思わず頷き西島に睨まれて、慌てて否定する。 「お前らここから出ろ!」 西島は2人を無理やり追い出す。 そして、 「碧、大丈夫か?」 と心配そうに聞く。 「大丈夫です。佐々木部長の方が………あの、凄く痛そうな音でしたけど?」 碧はゲンコツ炸裂をかなり心配していた。 「アイツは頑丈だから大丈夫だよ。」 「佐々木部長とちひろさんって、いつから知り合いですか?佐々木部長はちひろさんの事、僕より知っていて………なんか、羨ましいなあって」 「は?俺と佐々木、仲良くないぞ?」 西島は物凄く嫌そうな表情を見せる。 「だって、いつも……ちひろさんの方を信じていたり、お姉さんの事も」 佐々木だけじゃない。神林も西島の事を良く知っている。 もちろん自分は今年入社だから知らない事の方が多い。 これから知っていけばいいのだけど、それでも羨ましい。 「佐々木は………高校からだ。神林は中学の先輩で」 「神林先生って先輩なんですか?呼び捨てだったから、同じ歳かな?って」 「あ、……確かに。まあ、生意気な後輩に優しい先輩。」 照れくさそうに笑って、 「羨ましいのか?」 「はい。凄く」 「………それは、ヤキモチって思っても?」 「うへっ?」 碧はヤキモチって言葉に激しく反応。 ヤキモチ?えっ?えっ?そうかな? 羨ましいって凄く思う。………これも、ヤキモチなのかな? 碧は、恥ずかしそうに頷いた。 「碧にやきもち妬かれるの嬉しいな」 西島は嬉しそうに笑う。 「う、嬉しいんですか?僕のヤキモチが嬉しいとか、僕も嬉しいです」 えへへと、笑い返す碧。 互いに照れ笑いするラブラブな空気。 「はいはい、いちゃつくのはそれくらいにしないと佐々木と斉藤に動画撮られてるぞ?」 それを壊したのは神林の一声。 ドアの方を見ると確かにニヤニヤしながらスマホをこちらに向けている佐々木と斉藤の2人がいた。 「お前らああああ!!」 怒る西島。 それに動じない2人。 「ほら、荷物詰めるんじゃないのか?あいつ等はほっとけ!」 怒る西島の肩を掴み、冷静になるように諭す神林。 「か、神林先生!あの、ありがとうございます!」 神林の姿をみた碧は慌ててお礼を言う。 「いいんだよ碧ちゃん」 神林は碧の側に来て、頭を撫でる。 「ちひろ、鈍くさいけど、よろしくね。碧ちゃん」 「は、はい!」 「ここに引っ越すんだろ?良かったね。」 「神林先生や佐々木部長のおかげです。」 碧はまた深々と頭を下げる。 「碧ちゃんがね、そんな風にいつも一生懸命だから応援したくなるんだよ」 「ぼ、僕、一生懸命ですか?」 「うん、いつも全力投球。だから、ちひろも碧ちゃんが好きなんだよ」 その言葉に碧は涙ぐむ。 ああ、もう可愛いなあって思ったのは西島だけではなく、神林も。 この子にはかなわないなあ。 胸が少しチクんとくる神林。 俺じゃダメなんだなあって、思ってしまうよ。 神林はちらりと西島をみて、 「碧ちゃん泣かすなよ」 と頬をペチペチと叩く。 「泣かさないから」 ニコっと微笑まれ、こんな風に笑う顔を自分が引き出したかったと、思ってしまった。 「さて、俺は帰る!」 そう言って碧と西島に手を振る神林だった。 ◆◆◆◆ 「はあ……」 エレベーターのボタンを押し、ため息をつく神林。 ため息の理由は分かっている。 西島が碧の話ばかりしだした時から覚悟していた事。 片思い何年目だ? いいオトナなのに…… 中学からいれると……考えたくはない。 神林にだってそれなりに恋人はいた。でも、長続きしないだけ。 なんて女々しいんだろうって自分で思う。 エレベーターを降りて、マンションから出る。 駅に向かう途中、車のクラクションが鳴った。 「神林くん!!」 名前を呼ばれ振り向くとそこには、 「ミサキ……」 西島の姉が居た。

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