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僕が寂しい時も側にいます。 16話
頭を撫でられた諭吉はゴロゴロ喉を鳴らす。
本当、こうやって見ると諭吉は普通の猫。
諭吉がしゃれべると知っているのは自分と、この写真に写る幼い碧だけ。
どうして、碧は諭吉の声が聞けなくなったのだろう?
「碧、諭吉と出会った時覚えてるか?」
「はい。覚えてますよ」
西島の問いかけに笑顔で返事をする碧。
「帰り道でついてきたんです。それからずっと一緒です」
碧は諭吉を膝に抱き上げる。
「その頃からマグロって言ってたのか諭吉」
「えっ?…………あ~、そうだったかな?」
碧はそう言って少し元気がなくなった。
「どうかした?」
「えっ、いえ、ぼく、この頃、幼稚園に行きたくなくて、えへへ、その事思い出してしまいました。もう大人になるのに」
可愛く笑ってみせる碧は大人には見えない。
「碧ちゃん、……いじめられてたの?」
神林は少し遠慮しがちに聞く。
「はい。……僕を嘘つきって仲良かよくしてくれてた子に言われるようになって、あと、僕が憧れてた先生にも、嘘ついちゃダメって怒られてそれから幼稚園に行きたくないって親を困らせてしまって」
嘘つき?
西島はもしかして……と思った。
小さい時は話してたって諭吉が言っていた。
じゃあ、コレが原因?
碧がもし、友達に猫がしゃべると言えば嘘つきと言われるだろう。
猫がしゃべると碧は本当の事言っていたけれど、他の子は信じない。
動物はしゃべらないと、幼い子供も知る常識だ。
諭吉の声を聞けなくなったのはきっと、コレだ。
西島はそう確信した。
「碧」
西島は思わず諭吉ごと碧をギュッと抱きしめた。
「偉いね、碧は小さいのに頑張ったね」
そう言って頭を撫でた。
「ち、ちひろさん……か、神林先生が見てます!」
ビックリして、神林を気にする。
神林も碧の頭を撫でる。
「碧ちゃんはイイコだね」
そう言って。
「そ、そんな、2人して」
碧は恥ずかしさで照れるけれど、嬉しそうに笑う。
諭吉の声、聞けるようになればいいのに。
諭吉、寂しがってる。
きっと、たくさん話したいはずだ。
「ニッシー苦しかばい!ワシがおるとぞ!!」
ムギューと潰れている諭吉が文句を言っている。
その声に西島は碧から離れた。
きっと、この声も碧には届いてはいないだろう。
思い出したら辛いかも知れないけれど、
「碧、どうして嘘つきって言われたんだ?」
と聞いてみた。
「えっ?あ、えーーと、実はあまり覚えてなくて、その時の哀しい気持ちしか思い出せないんです。幼稚園行きたくないとか、そんな感情だけ覚えてます。なんか、調子いいんですよね?」
「ううん、碧ちゃんそれは仕方ない事だよ。君は小さかったし。ショックな事って忘れようって頭が整理しちゃうんだ。忘れていかないと人間は生きていけないくらい弱いからね。」
神林がフォローするように優しい口調でそう言ってくれた。
「……そお、なんですか?……はい。確かに仲良しだった直樹くんに嘘つきって言われた事がすごくショックで、あと先生とかも」
「その直樹くんとはその後どうしたんだい?」
「ぼく、幼稚園に行きたくないってずっとないてたから、違う幼稚園に移ったんです。ちょうど、祖父の家に引越す事になってたんで」
「それっきり?」
「はい。そうです」
碧が理由覚えていないのなら、諭吉と関係ないのかな?
そう西島は考えた。
他に理由あるのなら、見つけたい。
原因が分かって、その原因が解決なりなんなりしたら諭吉の声を碧はもう一度聞けるかも知れない。
「あ、ねえ、碧ちゃんさっき言ってた憧れの先生って碧ちゃんの初恋とか?」
神林はニヤニヤしながらわざとそう聞いた。
西島の反応がみたいから。
「えっ?えっ?ちが、ちがいます!!た、確かに憧れてたと思うんです、でも、ぼくの初恋はちひろさんなんです!!」
思わず力説して。そして、自分が凄い発言をしたと直ぐに気付き、首まで真っ赤にして、恥ずかしそうに俯いた。
ぐわあああ!!なにこれ?なにこの可愛い生き物?
西島と神林は鼻息荒く興奮してしまった。
特に西島は、
「碧!嬉しい!!」
とぎゅむうううう!!と諭吉ごと抱きしめた。
「ちひ、ちひろさん、神林先生がいます!!諭吉も!」
きゃー、と騒ぎながらも碧は幸せそうな顔をしている。
「碧ちゃんが鼻血出るまでやっちゃうわけだ」
神林はニヤリと笑う。
「うるさい!」
キッと神林を睨む西島と、恥ずかしくて涙目の碧。
ほんと、こいつ等って………可愛くて好きだ。
ちひろは碧ちゃんだから、こんなに素直に感情を出すんだ。
俺じゃダメなんだよなあ。
なんて、心の奥で凹んだ事は西島は知らない。
「さて、片付けますか?すすまない」
神林はそう言って段ボール箱へ碧の荷物を詰めていく。
碧と西島も気を取り直して、片付けを再開させる。
◆◆◆◆
「ちょっと休憩しようか?公園の側に自販機あったよな?俺、買ってくるよ」
神林はポケットの中の財布を取り出し、小銭を確認している。
「俺が出すよ」
西島もズボンの後ろポケットから財布をだす。
「イチャつくのをみせつけたから?」
からかうように言う神林。
「そうだよ、ばーか!」
そう言って西島は碧の分も含めて1000円札を取り出す。
「ぼく、僕が買いにいきますし、お金僕がだします!」
慌ててポケットを捜すが、
「あ、お財布ちひろさんの部屋だ」
と焦る。
「あはは、可愛いねえ。碧ちゃん。いいの、いいの、ちひろに奢って貰いなさい」
ぽふぽふと頭を軽く叩く神林。
「ち、ちひろさんごめんなさい。いただきます」
素直に頭を下げた。
そして、神林は公園へとジュースを買いに外へ出た。
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