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僕が寂しい時も側にいます。 17話
◆◆◆◆◆
「にゃ~ん」
公園近くの自販機へ行くと猫が神林の足元に擦り寄ってきた。
公園の猫。
前に西島に猫の餌やりを頼まれた時に懐かれてしまった。
「おっす、元気か?」
神林はしゃがむと猫の頭を撫でる。
「神林くん、何してんの?」
真後ろから声が聞えて顔を上げた。
「ミサキちゃん」
声をかけてきたのはミサキ。
「神林くんの姿が見えて……今日もちーちゃんのお見舞い?」
「ミサキちゃんもだろ?ミサキちゃん家は反対方向だ」
「まあ、門前払いだろうけど」
「今日は特に門前払い食らうんじゃないかな?」
「えっ?どうして?」
「会社の同僚が来るからさ……色々、準備してる」
碧の引っ越しとか言えないので、適当に誤魔化す。
同僚が来るのは本当。
後から佐々木が来るのだから。
「珍しくない?ちーちゃんが部屋に誰か呼ぶなんて?」
「確かにな。俺だって、滅多に部屋に呼んで貰えない」
「寂しがり屋のくせにね。ほんと、ちーちゃんって面倒くさい………ねえ、神林くん、話してくれた?」
「えっ?昨日の今日で無理だよ」
「うっ……やっぱ、そうか」
ミサキはため息つく。
「ちーちゃんって一度もお父さんをお父さんって呼んでくれない。」
「ちひろはさ、自分でもどうしていいか分かんないんじゃないかな?子供時代に色々あり過ぎてさ。」
「ちーちゃん、自分を不幸とかまだ思ってんのかな?本当は私の事も嫌いとか?」
「そんな事ないよ。」
「私、ちーちゃんが心から笑っている顔みたいんだ」
心から笑っている顔………神林は碧と出会ってからの西島の表情を思い出す。
最近の西島はちゃんと笑っている。
ああ、そっか……なんか変わったって感じたのはそこだ。
そして、思うのは碧にはやはり敵わないという事。
「大丈夫だよ、ミサキちゃんアイツ、最近楽しそうだから」
「えっ?どういう事?」
質問してくるミサキに碧の話をしたいけれど、それは西島の言葉で伝えなければいけない事だ。
「きっと、その内話してくれるよ」
「ってことはやはり、神林君は何か知っているのね!やっぱ、ズルい神林くんは!」
ミサキがプンスカ怒りだす。
神林は笑って誤魔化す。
◆◆◆◆
空気の入れ替えをする為に開けた窓から、諭吉がピョンと飛び出した。
「あ、諭吉だめだよ!」
碧は慌てたが諭吉はスタスタと公園の方へと歩いていく。
車来ちゃう!
それに、諭吉が見つかったらアパートの管理人に怒られるかも知れないと碧は焦る。
「ちひろさん、諭吉を捕まえてきます!」
碧は急いで玄関から外へ飛び出す。
「碧、諭吉なら大丈夫だよ!」
碧の背中に言葉をかけても、既に諭吉を追いかけて行ってしまった。
諭吉は心配しなくても頭がイイコだから大丈夫なのに。
言葉を理解する猫。
西島は何とかして碧と諭吉を前のように会話が出来るようになれば……と真剣に考えていた。
「諭吉、戻っておいで!」
諭吉の後を追う碧の行く先に神林の姿が見えた。
「神林先生!諭吉捕まえてください!」
そう叫んだ。
神林先生と碧の声がして、驚いて振り向いた。
「にゃ~ん」
足元に諭吉。
そして、諭吉を追ってやってきた碧。
あっ………やばい。
神林はミサキを気にする。
もしかしたら西島も一緒なんではないかと。
でも、西島の姿はない。
少しホッとする。
神林は足元の諭吉を抱き上げる。
「可愛い猫……それと」
ミサキは諭吉に顔をゆるめ、そして、こちらへ向かってくる碧をどこかで見た事あるような?と考えた。
「神林くんの知り合い?」
「あ、うん。」
返事を返した時に碧が側にきた。
そして、ミサキの存在に気付いた。
一瞬、誰だろうと思い、次の瞬間、初デートの日に出会った女性だと思い出す。
「あの時のお姉さん」
思い出した瞬間に言葉にしてしまっていた。
あの時のお姉さん?
ミサキも考えて、直ぐに西島と偶然会った日に定期を拾ってくれた可愛い男の子だと思い出した。
うわあ、ラッキー!!
また、会えた!!
ミサキは興奮してしまった。
あの時、可愛いと思った男の子ともう一度出会えるなんて!!
たくさんの人とすれ違って、再度出会う事なんて、あまり無い事なのに。
「こんにちわ」
ミサキは碧に微笑む。決してニヤニヤではない。
「えっ?なに?2人知り合い?」
神林はミサキと碧を交互に見る。
えっ?えっ?どういう事?
何が何だか分からずに神林はプチパニック。
「私の方が聞きたいわ。神林君、この子の知り合い?」
「えっ?あれ?知り合いとかじゃないの?」
ミサキの聞き方では碧を知らない風な言い方。
「あ、あの、僕、この前フードコートで列に並んでた人で、その……知り合いってわけではないんです」
碧の説明で神林はようやく、2人が偶然に会ったのだと理解した。
「うん、そうなの。定期券を拾って貰ったのよ。で、神林くんはどうしてこの子を知ってるの?」
「あ、彼は4月にちひろの部署に配属された新人の佐藤碧君だよ。通称、碧ちゃん」
「えっ?ちーちゃんの部下?えっ?うそ、この子社会人なの?えっ?中学生か高校生かと」
ミサキは改めて碧を上から下まで見た。
見れば見るほどに可愛い男の子。
「酷いです。僕は18ですよ!高校は卒業しました!」
プンプン怒る碧。
その怒り方はウサギかリスか、小型の動物が威嚇しているように見えて微笑ましい。
「ご、ごめんなさい。」
ミサキは笑いを堪えながら謝る。
そして、「あの、私、西島美咲っていうの。西島千尋の姉です」と名乗った。
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