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僕が寂しい時も側にいます。 20話

「ちひろは凄くモテてたな。でも、中学でも彼女は作らなかったし、高校でも女の子と付き合ってるとか噂はなかったなあ」 「えっ?モテてたのにですか?」 「うん、興味ないって感じ。手紙とか告白とか結構されてたけどさ、呼び出されても行かなかった。さすが千尋って思ったな。そんな硬派なとこが男子にウケたみたいで男子からも人気あったなあ。運動神経も良かったし、勉強もできた」 「す、凄いです!さすがちひろさん。僕は運動ダメでした。体育でバレーやった時にレシーブうけてたら両手腫れちゃって。それ以来、バレーの時は見学でした」 「あ~、碧ちゃんの肌、きめ細かだもんな。日焼けもしないだろ?」 「はい。赤くなって痛くなって、終わります」 「碧ちゃんらしいね」 神林は碧の頭を撫でる。 「僕、ちひろさんの事あまり知らない気がします。お姉さんが居る事も佐々木部長に聞きましたし……誕生日だって8月って最近聞いて」 「えっ?ちひろの誕生日8月なの?」 驚く神林。 「えっ?そうですよ。本人がこの前言ってましたもん」 「俺、知らなかったわ……中学から一緒なのにさ。あいつ、俺にも話さないよ。だから、碧ちゃんの方が知ってる」 「えっ?そうなんですか?誕生日会とかしなかったんですか?」 誕生日会という言葉に神林は和んだ。 かわいい。きっと、高校までくらいこの子は誕生日会して貰ってたんだなあ。 「俺の誕生日とかにはプレゼント貰ったことあって、何度も聞いたんだけど、教えてくれなかった」 「何でですかね?誕生日、お祝いするの楽しいし、嬉しいのに」 「碧ちゃんの誕生日いつ?」 「11月です」 「来年は碧ちゃんのお誕生日会やってあげるね」 「いえ、その前にちひろさんの誕生日がきます!僕、ちひろさんの誕生日お祝いしたい」 「サブライスがいいんじゃないか?やろうって言ってもちひろはやりたがらないと思う」 「え~~、そんなあ」 「いいよ。誕生日なんて。もう子供じゃないし」 急に聞こえた西島の声に碧はビクッと身体を飛び上がらせる。 「ちひろさん、いつから?」 「碧の誕生日辺りから」 西島は碧の横に座ると、 「碧の気持ちだけで嬉しいよ」 頭を撫でる。 「僕はちひろさんの誕生日、お祝いしたいです!!だって、誕生日はちひろさんが生まれた記念日ですよ?」 「ありがと碧。碧の誕生日はお祝いしような」 「でも、」 「碧………少し、話をしようか?」 碧の言葉を遮るように言うと西島は諭吉に話せと言われた事を決心した。 「俺は家族の話しないだろ?碧の実家でも親は居ないって言った」 碧はこくんと頷く。 「居るんだ……俺は複雑な家庭でね。碧に話すのも躊躇った。引いちゃうんじゃないかって」 親が居ると言う言葉に碧は少し驚いたが、複雑な家庭と言う言葉と、引かれてしまうんじゃないかという心配に、 「僕は、僕は全然、引いたりしません」 と力強く言った。 「うん、そう言ってくれるとは思ってた……神林もそうだって知ってるけど、俺の心は強くない。少しでも、離れてしまうような仕草とか、見たくない。もう、嫌なんだ……好きな人が離れていくのは。」 西島は今まで見た事もないような寂しそうな表情をみせる。 「碧、俺はね。……愛人の子供なんだ。」 碧は次の言葉を待つように西島を真っ直ぐに見つめる。 真剣に受け止める。そんな瞳で。 「それを知ったのは小学生くらいで、それまでは両親そろってた。父親は俺の本当の父親だと疑わないくらいに可愛がってくれてた。幼稚園の運動会で誰よりも前にでて、ちひろ!がんばれ!!って応援してて、わざわざ、ビデオカメラまで買い込んで。家族旅行も色々いった。動物園や、水族館、夏には海はキャンプ。子供が好きなイベントは全部やって貰ってた……釣りに行ったり、カブトムシとか……ほんと、色々とさ。でも、ある日突然それが壊れた。」 それは本当に突然だった。 学校から帰ると見た事がない革靴があった。 子供がみても高そうな。 ただいま。って気を使うように小さく中へ声をかけると、泣きそうな顔の母親が出てきて、 「ちひろ、話があるの」 と客室へ呼ばれた。 そこには父親もいて、そして、見知らぬ男性がいた。 その人は大きな会社の社長とかで、高そうなスーツに身を包んでいた。 誰だろう?と思っていると、信じられない事を口にした。 「ちひろくん、はじめまして。私が君の本当の父親だよ」 その瞬間、頭が真っ白になった。 この人は何を言っているのだろう? 何をしにきたのだろう? だって、お父さんはここに座っている。 その場を助けて欲しくて父親を見ると、 「俺は……ちひろの本当の父親じゃないんだ……でも、でも、お前を本当の息子だってずっと思ってた」 涙声で告白された。 その後はあまり覚えてなくて、吐き気がしてその場に座り込んだ。 それから、何度も父親だと名乗る人は家にきた。 嫌で嫌でしょうがないのに両親は家へ上げる。 そして、「ちひろとは一緒に暮らせない。今度からはこの人と」と見放された。 たとえ、血が繋がってなくても、父親は自分を手放さないと信じていたのに。

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