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ずっーと、好きです。6話

「明日は区役所とか行こう。住所変更とかしなきゃいけないし」 ベッドに2人、横になりながら話している。 「一緒に来てくれるんですか?」 「もちろん。碧、迷子になりそうだし、ついでに買い出しも出来るだろ?」 「はい!」 えへへ、やったあ。ちひろさんとデート………って、あ、違うか。転移届け出しに行くんだもんね。 でも、それでも、2人で出掛ける事には変わらない。 「ちひろさん明日は早起きですね」 「そうだな。電気消そう」 そう言って起き上がる西島に、「あ、あの、電気もうちょっといいですか?」と止める碧。 「うん、いいけど?どーした?まだ眠くない?あ、ちょっと寝ちゃったもんな碧は」 「……そう、なんですけど……ちょっと違います」 「何?」 質問されて、困ったような顔をする碧。 「何?言ってごらん?」 もう一度聞かれ、碧は、 「夢……また、見そうで嫌だなって」 「夢?」 「はい……さっき、夢見ちゃって……嘘つきって言われる夢……」 碧は不安そうに枕をギュッと掴む。 ああ、そうか昼間話をしたから思い出したのかな? 「ほら、おいで」 西島は碧を抱き寄せる。 「碧が怖い夢みたら起こしてあげるから安心していいよ?」 抱きしめられた腕は凄く温かくて、そして安心する。 「ぼく、ちひろさんの腕の中好きです。安心できて」 胸に顔を埋める碧。 「そう?」 「それと、ちひろさんの匂いがします……」 碧は西島の身体を腕を回す。 「心臓の音も好きです……この音、凄く安心しますよね……おばあ、祖母が言ってたんですけど、動物の赤ちゃんは心臓の音を聞くと安心して、眠れるって……お母さんのお腹に居た時を思い出すからって……だから、ぼく、毎晩、諭吉抱っこしてました。」 「そうか、碧は優しいな」 「………ぼく、諭吉が喋れるって言ったんです」 「えっ?」 「嘘つきって言われた理由思い出したんです。諭吉が喋れるって……でも、信じて貰えなかった」 ………やっぱり、原因はそれだ!!と西島は思った。 「さっき、諭吉が話した気がしたんで思い出したんです。」 「えっ?……いつ?」 「ご飯あげた時にマグロがたべたい。って……でも、もう聞こえなくなりました。ぼく、やっぱり嘘つきですね」 西島に回した手は震えている。 「えへへ、ごめんなさい。変な事言ってぼく……」 「碧、諭吉は話せるよ!」 「えっ?」 顔を伏せていた碧は思わず西島の顔を見上げた。 「話せるんだ。碧は嘘つきじゃないよ」 「………だって、にゃーんってしか……諭吉、話せるんですか?」 「話せる。俺も初めは信じられなかった、頭おかしいのかな?って……でも、今は信じてる。」 「ちひろさん……諭吉と話したんですか?」 碧の目は真っ直ぐ西島を見ていて、じんわりと涙が滲んできてきる。 「昔は碧とも話してたって……話してたんだろ?」 西島にそう言われ碧は、何かを思い出したように涙をボロボロと零した。 「はなして……ました。……ぼく、諭吉と話してました。でも、いつからか、声が聞こえなくなって……話していた事さえ忘れていました」 ボロボロ泣く碧の頬にそっと手をあてる西島。 碧が忘れてしまったのは仕方がない事。 まだ幼かったし、嘘つき呼ばわりされ、ショックだったのだろう。 でも、それでも諭吉と話していた事は心の奥底にあり、話していた時のように諭吉にずっと語り掛けていたのだと西島は思った。 「碧は小さかったし、嘘つき呼ばわりされて辛くて心に封印しちゃったんだよ、仕方ないよ」 西島は碧をギュッと抱きしめる。 「ちひろさんには聞こえるんですね諭吉の声」 西島の腕の中、碧はそう聞いた。 「話しているよ諭吉と」 「羨ましいです………僕もまた、諭吉と話したい」 「また、話せるよ。碧の心が落ち着けば」 「どうしたらいいですか?」 「待つしかないよ。根気よく。碧のトラウマになってしまった子に会うのもいいかも知れないね。」 「直樹くんですか?」 「そう!嘘つきって言われた後から会っていないんだろ?」 「はい。でも、会ってどうするんですか?また、諭吉が話せるって言うんですか?」 「いや、そうじゃない。原因をとことん追求していくんだ。直樹くんって子に嘘つきって言われた事がショックだったのか、彼に嫌われたって思ったのがショックなのか。それとも、猫の声は自分以外聞こえないって事にショックだったのか……原因を見つけて、それに向き合えば諭吉とまた話せるよ」 自分はカウンセラーでもなんでもないけど、前に似たような事を言ってくれた大人がいた。 子供だった自分に色々と根気よく教えてくれた大人。 唯一、信用出来る大人はその人だけだったかも知れない。 それにより、少しづつ、周りに溶け込んでいけた。 だから、碧も…… 「ちひろさんが信じてくれただけでも嬉しいです。」 碧は西島の首筋に両手を回す。 「諭吉、碧の事がいつも心配みたいで俺に色々言ってくるよ」 「本当ですか?諭吉の事話してください。いっぱい、聞きたい」 「うん、もちろん」 西島は公園のにゃんこの話もした。 親が居なくて、公園の兄弟にゃんこと一緒に居る事。 いつも、マグロを買ってこいと要求される事も。 そして、諭吉自身も親を事故で亡くしている事も。 「公園のにゃんこ……そうだったんですね」 「うん、諭吉が言葉を話せて良かった」 西島がそう言った時にポスんと諭吉がベッドに飛び乗ってきた。 「なんや、ワシの噂か?」 そう言うと諭吉は西島と碧の間にスルリと入ってきた。 「諭吉……」 碧は諭吉を抱きしめる。 諭吉もゴロゴロと喉を鳴らし、碧の首筋に顔をちょんと乗せる。 「諭吉、話してた事忘れててごめんね。諭吉はずっと、僕に話しかけてくれてたんでしょ?ちひろさんが教えてくれた、ごめんね諭吉」 「よかよか、ワシが碧と話ばしたかっただけやし」 西島にはそう聞こえるが碧にはきっと、にゃーんとしか聞こえていないだろう。 「いいって、自分が碧と話していたいだけだから」 西島は通訳をする。 「諭吉……ごめんね。ありがとう」 碧はそう言うとボロボロと涙をこぼす。 諭吉はその涙を舐める。 「碧の泣き虫は治らんな。」 「碧は泣き虫だって」 「うん、ぼく、泣き虫だよ諭吉」 西島が通訳してくれるので、凄く嬉しい。 諭吉がやっぱり話せた事と、大好きな西島が諭吉と話せる事。 こんなに嬉しい事はない。

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