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13話
◆◆◆◆
神林は腰をさすりながら仕事場に居た。
本当、篤さんって容赦ないから……。
結構な寝不足&身体がダルい神林。此上は恐ろしいくらいに絶倫だと思う。昨夜は星夜の土産のせいでかなり激しく抱かれた。
また……気持ち良かったし?上手いし……って考えてしまい、ああっ!!俺ってこんなに淫乱だったけええ!!と机に伏せて悶える。
「……神林、どーした?」
急な西島の声に慌てて顔を上げた。
まさか、声に出てた?
「なんか……疲れてるっていうか、どーした?顔が赤いけど熱ある?」
ほんの今までエロい事を考えていた神林の顔は赤く、しかも様子が変なので西島は近寄ると額に手を当てた。
「うおっ!!」
西島がかなり近く、しかも手のひらが額にきたので思わず変な声を出して後に仰け反った。
「な、ない、熱ないから」
西島の手を払い、懸命に弁解。
「そうなのか?ならいいけど」
「ち、千尋こそどーした?」
「何って休憩」
「……休憩、碧ちゃんは?」
神林は西島にコーヒーを煎れる。
「斉藤……じゃなかった、えーと、星夜に捕まってる」
「星夜くんに?珍しいね、千尋が碧ちゃん置いてくるとか」
「まあ、新婚だし、碧には手は出さないだろうし、友達と色々と話すのもいいかな?って」
西島は近くの椅子に座る。
「へー、なんか最近、落ち着いてきたね千尋」
「は?」
「前は、少しでも碧ちゃんにちょっかい出されるかもって誰に対しても警戒してたじゃん?余裕出てきたって事かな?」
神林はクスクス笑う。
「むー、何だそれ……諭吉にも似たような事言われた」
西島はムッとしながらコーヒーを飲む。
「諭吉?あの子鋭いからなあ……野生の勘ってやつ?何言われたの?」
「んー?最近、ちゃんと笑ってるとか、満足そうとか何とか」
「あー!それ、分かるよ!千尋、前は愛想笑いだったから」
神林にビシッと言われて西島は眉をひそめる。
「何だよ……俺ってそんなに」
自分では愛想笑いではなくちゃんと笑っているつもりだったのだ。でも、神林にも言われるっていう事は自分で思うよりも何も隠せていなかったという事になる。
ちくしょー諭吉……。
「碧ちゃんってやっぱ凄いなあ」
神林は笑いながらに言う。
「俺とか学生時代からの付き合いだし、篤さんは千尋が子供の頃からなのに……ほんの短時間で碧ちゃんは千尋をちゃんと笑わせる事が出来る」
しみじみと言われて、「べ、別に神林とか此上に警戒とかしてないからな!」と弁解みたいな事を言う。
「分かっているよ、ただ踏み込めない領域って誰にでもあるだろ?そこに入れたのが碧ちゃんなんだろうなあって思ってさ……それは嬉しい事がだよ?ちゃんと笑ってくれてるって篤さんだって嬉しいと思う」
「あいつ、過保護だから」
「千尋は周りをちゃんと見て欲しいな、自分で思うよりも愛されているし、心配もされているんだから」
神林の言葉はドシッと心に乗っかってくる。考えた事も無かったのだ。
誰かに愛されるとか心配されるとか。
此上は確かに心配してくれたし、可愛がってもくれた。でも、それは同情なんじゃないかって心のどこかで思っていた。諦めと絶望が先にくるのだ。
期待してもどうにもならないって幼いあの日に知ってしまったから。
「千尋はさ……まだお父さんとあまり話してないんだよね?」
神林から突然言われて、どう答えて良いか分からない。それに何故、そんな事を聞くのかとさえ思う。
「話す事ない」
「まあ、俺だって親とは余程の事がないと話たりしないもんな」
「神林んちの両親いい感じだったじゃん?それでも話とかしないのか?」
昔、神林の家に遊びに行った事がある。
彼には小さな弟や妹がいて大変そうだけど、楽しそうに西島の目には映った。
「実家に帰れば話はするけど、電話してまではないなあ」
「そっか、そんなもんか」
「碧ちゃんは?あの子は色んな話を報告してそうだね」
「ああ、良くお姉さんとかと電話で話してるよ、あと親父さんとかからメールとかきてたりするから楽しそうに返してる」
「碧ちゃんらしいな」
神林は想像して笑う。
「碧見ているとさ……本当に愛されてる子だなって思う」
少し寂しそうに見える西島。
「羨ましい?」
ふと、神林はどう答えるかな?と聞いてみた。否定しそうだなと思ったが、西島の答えは「少しね」だった。
「昔を思い出してしまう。でも、寂しくなるとかそういうんじゃない……懐かしいなって思う」
その言葉で神林は彼が本当は父親とも仲良くしたいし、育っててくれた親とも会いたいんじゃないかと思った。
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