505 / 526

14話

神林は此上に聞いた西島の話を思い出す。 彼の両親と父親の間に交わされた事。 西島はきっと誤解していると此上も言っていたし、話を聞いた神林もそう思う。 誤解をとくにはどうしたら良いのだろう?彼にいきなり話をしても聞かないのは今までの経験上分かる。 此上に話させた方がいいのだろうけど、でも……「千尋あのさ、」と言いかけた時に誰かが医務室に入って来た。 「すみません、頭痛薬あります?」 神林に声をかけてきたのは専務。彼は西島に直ぐに気付き「西島くん」と微笑む。 「風邪ですか?」と西島も直ぐに言葉をかける。 「そうかな?」と笑って答えて「諭吉元気?」と聞いてきた。 「元気ですよ」 「また連れてきてよ」 「はい」 ニコッと微笑む西島。その微笑みに専務も微笑み返しながら「神林くんも一緒に飲みに行かない?」と言う。 「突然ですね?今日ですか?」 「日を改めてでもいいよ」 専務がそう答えた時にドアがまた開くと碧が入ってきた。 「こんにちは」といつものように挨拶をして専務に気付いた碧は慌てて「あ、あっ、お、お疲れ様です」と勢い良く頭を下げた。 「あはは、佐藤くんそんな畏まらなくていいのに可愛いね」 専務は碧の行動を微笑ましく見てそう言った。 「あ、そうだ佐藤くんも一緒においでよ」 「えっ?」 専務の言葉にキョトンとする碧。 「専務、佐藤は未成年です、飲み会には」 西島が慌てたように遮り庇うかのように碧の前に立つ。 その様子にまるでお姫様を守る騎士みたいだなと笑いそうになる専務。 「ご飯だけでもいいでしょ?佐藤くんとも話してみたいし、諭吉の写真とか話聞きたいし」 専務は西島の後にいる碧に話しかける。 「ご飯ですか?」 あ、さっきの一緒においでよ。はそういう事かと理解した碧。 大人の飲み会に自分も参加して良いのだろうか?と悩むが諭吉を気にしてくれる優しい人に見えるから碧は「ご、ご飯なら」と言ってしまった。 それに驚いたのは西島。 「碧、大丈夫なのか?」とつい、名前で呼んでしまい、しまった!!という表情をする。 「碧くんって名前だったね。君に似合ってて可愛い名前だね。西島くんも千尋だもんね、可愛い名前だよね」 ニコニコと笑って2人を見る専務。 「あ、ありがとうございます。専務は下の名前何ですか?」 碧は天然なのか怖いもの知らずなのか自然に名前を聞く。 「テルだよ、漢字は輝って書くんだ」 「カッコイイですね」 ニコッと微笑む碧に神林も西島もドキドキしている。怒りはしないだろうけれど、本当に怖いもの知らずなんだなあと2人は感心する。 「諭吉にも会いたいなあ……あ、でも、外でのご飯なら連れて来れないか……」と専務は考え込み「じゃあ、家においでよ、僕が料理作るから」とまるでナイスアイデアと言わんばかりにニコニコして碧と西島と神林を見る。 「此上くんも一緒に」 「えっ、何で此上……」も思っきりタメ口を使い、西島は慌てて「此上まで……そんな迷惑じゃないですか?」と断るつもりで話出す。 「迷惑じゃないよ?此上くん面白いし、西島くんの保護者でしょ?」とクスクス笑う専務。 そうだ……失態を見られていた。 お詫びという形にはならないだろうが、申し出は受ける事にした。なんせ、次は付き合うと言ってしまったのだから。 「碧くんは何が好き?」 西島がOKを出した事でかなりご機嫌な専務は碧に好きな物を聞く。 「あ、あの、僕もお手伝いしますから」 「本当?ありがとう」 ニコニコ笑いながらまた碧の頭を撫でる。 まるで父親の手伝いをすると宣言した子供を褒めるように。 結局、食事会は日曜日という事になってしまった。 ◆◆◆ 「じゃあ、日曜日ね、またね碧くん」 専務はヒラヒラと碧に手を振って医務室を出て行った。 「専務、優しい人ですね」 碧はワクワクした顔で西島を見る。 無邪気というか、天然というか。 「碧は本当、凄いな」 西島は碧の頭を撫でる。 「えっ?何がですか?」 キョトンとする碧。 「何でも無い」 笑って誤魔化す西島。そして、ふと、さっき神林が何か言いかけた事を思い出した。 「そう言えばさっき、何か言いかけたよな?」 「えっ?あっ……」神林は碧が目の前にいる事もあって「何だったかな?忘れちゃった」と笑って誤魔化した。 ◆◆◆ そして、日曜日になり碧と諭吉を連れて西島は車に乗り込む。 「ニッシー途中でスーパー寄るとやろ?マグロも買えな?」 助手席の碧の膝の上で当然のように言う諭吉。 「お前な……ちゃんといい子にするなら買ってやる」 「ワシは良い子ぞ?」 「専務のお家で遊べるよ、良かったね諭吉」 碧は諭吉の頭を撫でる。 「専務ってこん前会ったヤツやろ?マグロくれる言うたな」 「アイツ言うな!」 西島は笑いながら言葉を訂正した。 ◆◆◆ 神林も此上と専務の家に行く為に車に乗り込む。 「千尋、良く行くって言ったな」 運転したがら此上が言う。 「決定させたのは碧ちゃんだから。あの子が行くっていうと千尋はうんって言うしかないから」 「さすが碧ちゃん」 神林の言葉に笑う此上。 「このまま……誤解解けるといいのにって思ってます」 神林は真剣な顔で此上を見る。 「テルさんが何考えているか分からないけど、多分、会わせたいんじゃないかな?」 「母親と義父に?」 「うん。多分……様子はいつも教えてるって言ってたし」 「千尋のお父さんともちゃんと話せるようになればいいけど」 「それが1番難しそうだ」 「千尋頑固だから」 「碧ちゃんくらい素直なら良かったんだけど。昔は千尋も碧ちゃんみたいに素直な子供だったみたいだよ。頑固にしてしまったのは周りの大人だ」 此上の言葉に考え込む神林だった。

ともだちにシェアしよう!