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第17話
◆◆◆
飲み過ぎるなよ……と此上に言われた西島なのに。ソファーで熟睡中。
「ちひろさん」
碧は肩を揺するが起きる気配がない。
「碧ちゃん、千尋は俺の車で運ぶから」
此上に言われる碧。
「でも、ちひろさんの車」
「置いてていいよ」
専務に微笑まれる。
「すみません……僕が運転出来たら良かったのに」
「免許取りに行ったらいいのに」
「僕も取りたかったんですけど、おと……あ、親がお前は危なかっしいから止めておけって言うから」
しょんぼりする碧。
「可愛がられているんだね。きっと危なかっしいは君が事故に遭ったら嫌だからだと思うよ」
優しく笑いかけて碧を励ます専務。
「二十歳になったら取ろうかな?って思ってます」
「ん?どうして二十歳?免許は取れる年でしょ?」
「2年お金貯めれば自分で免許取れますし、成人したら親だって危ないとか言わないでしょ?」
自信満々に言う碧に少し笑って頭を撫でる専務。
「本当に君は可愛いね。だから西島くんも君が好きなんだね」
その言葉で碧は一気に顔が赤くなる。
えっ!!ええっ?何で?知って?
「あ、あの、僕、僕」
少しパニックになる碧に専務は微笑むと「見ていたら分かるよ。付き合っているんだろ?」と言った。
どうしたら良いのだろう?もうバレているし、誤魔化すのは西島に失礼だと碧は決心して「はい。お付き合いしてます」と耳まで赤くして言った。
「反応が可愛いね」
真っ赤になる碧を微笑ましく思うのか目を細める専務。
「西島くんは君と出会ってからちゃんと笑うようになって、凄く嬉しく思うよ」
それはどういう意味だろうと碧は首をかしげる。
「彼は誰よりも人懐っこい子で君みたいに物怖じしない。仕事は出来るし、ルックスだって凄く良いだろ?でもね、見ていると全然幸せそうに見えなかったんだ。笑ってても心空っぽって感じでどこか遠く見ている……そんな印象を持ってた。でも、君が入社してから一気に明るくなって、凄く楽しそうに見えてね。ほら、君のお友達の斉藤くん?彼と君の世話をしている西島くんは明るく元気で本来の彼はこうなんだなって……だから、君には感謝しているんだ。ありがとう」
専務は碧の頭を撫でた。
ありがとうは心からの言葉。
空っぽだった彼の心を満たしたのは碧だ。
どこか寂しげだったのに良く笑うようになって、笑顔だって嘘くさくないのだ。
碧はどうして専務がありがとうと言うのだろうと不思議だった。
「あ、そうだケーキ余っているからお土産に持って帰ってね。君も気に入ってくれてたでしょ?それ以上に西島くんも気に入ってくれてたみたいだし」
専務はケーキを箱に詰めてくれた。
「また、おいでね。今度は泊まるつもりで……きっと、西島くんまた寝ちゃうだろうから」
優しく微笑む専務に「はい」と元気に返事をする碧。
また、諭吉を連れて遊びに行くと約束をして専務の家を後にする。
運転は神林がしている。彼はワインは飲まないでいたのだ。
後部座席に熟睡中の西島と碧。
諭吉は助手席にいる此上の膝の上で丸くなって寝ている。
「千尋、本当……酒弱いな。専務だから良かったけど」
お持ち帰りされるぞ?と言いたいのを我慢。なんせ、碧が側にいるから。
「専務優しいですね。今日、沢山話してて思いました」
「そうだね」
碧の言葉に同意する此上。
「千尋と碧ちゃんの事しっかりバレてたね」
運転しながら神林は言う。
「まあ、碧、ちひろさんって自然に呼び合えばね」
此上の言葉でハッとする碧。それでバレてたのかあ!!!と自分のバカバカと自分自身を責める。
でも、バレても専務は好意的だった。差別も何もなく寧ろ喜んでくれた。
祝福されるのは嬉しい。
佐々木と星夜を凄く羨ましいと思っていたから尚更だ。
佐々木と星夜は祝福されていた。
中には同性婚を良く思っていない人だって居るだろうけど、彼らに嫌な事を言ってくる輩はまだいない。
もし、自分と西島がカミングアウトしたら周りはどう思うだろう?
佐々木と星夜みたいに祝福してくれるだろうか?
専務みたいに喜んでくれるだろうか?
碧はふと、そんな事を考えてしまっていた。
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