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僕の一番はちひろさんなのです。

◆◆◆◆◆ 碧は西島に教えて貰いながら区役所で転移手続きをした。 書類に新しい住所を書く時に思わずニヤニヤしてしまう自分に気付く。 えへへ、嬉しいなあ。 飛び跳ねたい気分だけど、こんな真面目な場所では出来ないから我慢。 アパートを引き払う手続きは西島がやってくれた。 これから自分に届く郵便物は全部、西島の部屋に届くし、色んな手続きする時は西島と同じ住所を書く事になる。 それが凄く嬉しい。 嬉しくて姉の夏にメールをした。 夏姉ちゃん、僕、今日からちひろさんと同じ住所だよ。 そんな内容のメール。 そして、手続きも終わり、車に乗込んだ瞬間に夏からのメールの返事がきた。 内容は、 碧ちゃん、何かお嫁にいったっぽいね。お姉ちゃんより先にお嫁行くなんて~。 だった……… お、お嫁さんんんん!!! うわあああ!!僕は男の子だからお嫁さんじゃないけど、でも、でも、なんか嬉しい。 メールを見ながらニヤニヤする碧を見て西島は、 「どうした?」 と声をかける。 「えっ?あの、夏姉ちゃんからで……今日、ちひろさんと同じ住所になったってメールしたんです、そ、そしたら」 碧は頬を染めながらメールを西島に見せた。 西島は内容を読んで、ああ、確かに嫁に貰う感じだなって思った。 「うん、そうだね。碧の両親にも碧をくださいって言ったもんな。うん、碧は俺の嫁だな」 西島は碧の頭を撫でる。 う、うひょおおおお!!!嫁!!ぼく、嫁ですかあ!!!! 「あの、あの、ち、ちひろさん」 碧はテンパった。 でも、西島にはテンパる碧の気持ちが読めないので、嫁扱いは嫌なのかな?って思う。 男の子に嫁って………だから、謝ろうとした時に、 「ふ、ふつつか者ですがよろしくお願いします」 と碧が頭を下げた。 耳まで真っ赤な碧。 うわあ!!もう、なんでいちいち、こんなに可愛いんだよ? めっちゃ抱っこしたい!! 「碧………俺がお願いしたいくらいだよ?こんなオッサンでいい?」 「ち、ちひろさんはオッサンじゃありませんんん!!ちひろさんだからお願いしたいんですもん」 顔を上げて必死に言う碧。 「うん、ありがとう。俺も碧じゃなきゃ嫌だ。碧だから好きになったし、碧だから一緒に住みたいんだ」 その言葉で碧はダバ~~と涙を零した。 「うわ!!碧!!ちょ、泣くな」 西島は慌ててハンカチで碧の顔を拭く。 「よし、もう家に戻ろう?なっ?」 泣く碧の頭をグリグリ撫でると車を走らせた。 「もう、大丈夫です」 泣き止んだ碧は鼻をグスグス言わせながらにそう言う。 「ぼく、泣き虫なんです。小さい頃から……直ぐに泣いちゃうから、幼稚園でも度々からかわれて、その度に兄や夏姉ちゃんが文句言いに行ってて」 「ああ、なんかその気持ちわかる。もし、今、碧が斉藤とか佐々木とか、他の誰かに泣かされたら全力でソイツ殴れる自信ある」 「ちょ!!だめですよ!殴っちゃ!!」 「冗談、冗談、それくらい、碧が可愛いって事だよ」 慌てる碧の頭を撫でる。 「えへへ、嬉しいです。仲良しの直樹くんも僕が泣くと良く慰めてくれてました」 「直樹くん?…………あ、諭吉が喋れると言った時に嘘つきって言った子か」 「そうです、その直樹くん。1番仲良しだったから、余計に嘘つきって言われたのが悲しくて……」 碧は少し、しょんぼりしているように見える。 「碧は嘘つきじゃないだろ?諭吉の声は俺も聞こえるし」 「はい!!凄く嬉しいです………でも、また、話せるようになりたいなあ」 「話せるよ!絶対に!!!」 西島に微笑まれて、碧も元気を取りも出したように笑う。 ………そうだ。直樹くんが原因だったな。 西島は車を走らせながらに碧が諭吉の声が聞けなくなった理由を考えた。 どうやったらまた、声が聞こえる? トラウマを克服すればいいって言うよな。 うーん、神林に聞いてみよう! 西島はそう考えながら帰路につく。 ◆◆◆◆◆ 「マグロは?」 ドアを開けた瞬間に待ち構えていた諭吉にそう言われた。 「お前な、おかえりの前にマグロか!!」 苦笑いする西島。 「マグロって言うのは僕にも分かるんですけど………諭吉、マグロあるよ。」 「ほんとか?さすが碧ばい!!」 諭吉は碧の足元に身体をスリスリ。 「ニッシーも見習え」 そう言って諭吉は尻尾で西島の足を叩いた。 「何って言ってるんですか?」 ニャーニャー鳴く声にしか聞こえない碧は笑っているのだが、やはり寂しそうに見える。 「さすが、碧って!」 「本当ですか?ふふっ、諭吉おいでマグロあげる」 碧は諭吉を抱き上げるとキッチンへ向かう。 諭吉と話せるようになれればいいなあ……西島はそう思わずにいられない。 ◆◆◆◆◆ 西島はベランダへと出て神林へ電話をかける。 諭吉の声が聞こえるようにしてあげたい。 自分は専門家ではないから、こんな時はどうしてあげればいいかとか、全く分からない。なので、神林に相談するのだ。 3コールで電話に出た神林。 「なに?ちひろ?また、碧ちゃんやり過ぎて具合悪くさせた?」 「…………」 また、って何だよ!!つーか、もしもしの前にそれかよ!!! つい、黙ってしまう西島。 「あれ?ちひろ?おーい、どうした?」 返事が返って来ないのを心配したような声。 「どうもしてないよ!!」 「あ、よかった。どうした?」 「ちょっと相談………あのさ、トラウマってどうやって克服するんだ?」 「はっ?……なに?自分の事?」 驚くような神林の声。 「なんで、俺なんだよ?違うし!」 「………あ、いや、だって、……誰の事?」 一瞬、西島自身のトラウマの事かと思った。 本人は気付いていない。いや、気付こうとしない。そんな感情。

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