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僕の一番はちひろさんなのです。 2話
「碧……」
名前を出した後にどう説明しようか悩む西島。
まさか、猫がしゃべるとか言うわけにもいかないし……どう誤魔化すか?
「碧ちゃん?あ、もしかして、この前言ってた子供の頃の話?嘘つきって言われて幼稚園に行けなくなったってやつ」
どう誤魔化すか悩んでいたが神林が先にそう切り出してくれて助かった。
「そう!そうなんだ。なんか気になって」
「お前、本当、碧ちゃんの事になると過保護になるな」
クスクス笑う神林。
過保護……まあ、確かに。
一緒に住んでいるし、両親には碧を下さたい発言までしている。
「う、うるさいな!!」
でも、改めて神林に言われると妙に照れる。
「まあ、色々とやり方あるみたいだけどな。俺も精神科は専門じゃないから、上手いアドバイスは出来ないかも知れないけど………まあ、1番はそのいじめた子に会うとか?あ、碧ちゃんがじゃないよ?お前が。どうして嘘つきって言ったのか理由知りたいだろ?碧ちゃん、本人は覚えていないわけだし」
「その後は?」
「その後は……碧ちゃんにも話して、例えば些細な誤解だったかも知れないし、トラウマって理由と、その原因を自分が受け止めれたら意外と克服出来たりするぞ?」
「そんなもんなのか?」
「心の奥にある自分が認めたくないものを言葉にすると楽になるぞ?あと、ちゃんと向き合って相手の言葉も聞いてみる。向き合うのは誰でも怖いけど、でも、それをしない限りはずっと、そのままだ。そのままでいいとか、開き直るのもダメ!モヤモヤが増えるだけだ。心の病って身体の不調にも繋がるんだぜ?ちゃんと向き合え」
「………なあ?それ、碧の事だよな?」
西島の質問に神林はドキリとくる。
途中から西島自身への言葉へと変わっていたから。
「そうだよ!碧ちゃんの事!!!」
お前だよ!って言いたい。言いたいけど、いまの西島に言っても無駄。
碧のようにちゃんと原因を自分から口にしないと………認めないとダメだから。
「だよね?途中から誰の話?って思ってしまった」
「まだ、有給あるんだから、いっそ、碧ちゃんの実家行ってみたらどうだ?その男の子に会ってみて話聞いてみるとか出来るだろ?」
「あ、そうだな。無事引っ越し出来たって報告しないと」
「なんか………新婚みたいだな」
神林の言葉に、碧の姉のメールを思い出す。
「か、神林に言われると、照れるからやめろ!」
「佐々木に言われたら?」
「殴る!」
「あ、やっぱり」
「いつも、ありがとう」
「なんだよ、改まって」
「いや、いつも神林ってなんだかんだって俺の面倒みてくれるからさ」
「だって、ちひろ、手がかかるもん」
それに昔、西島の父親に言われた。息子をよろしくと……ずっと、仲良くしてくれと。
それと、もう1人……此上にも言われた。
本当、コイツ、すげえ愛されているのに気付いていない。
「そんな手かかるか?俺?」
「かかるよ?なんか奢って欲しいくらいだ」
「わかった。何かおごる」
素直に返事され、笑ってしまった。
「じゃあ、俺、仕事だから。碧ちゃんによろしく」
そう言って神林は電話を切った。
ちひろの馬鹿野郎!!こっちの気持ちも知らないで!!
神林は電話を切ってため息をつく。
好きな人に恋人の相談をされるのは覚悟していても辛い。
自分勝手な片思いなんだから西島は悪くはない。でも、それでも心がちくんと傷んでしまう。
「あ、ミサキちゃんの食事言うの忘れてた」
ミサキとの約束を思い出したが、かけ直す気にはならない。
俺って、ほんと馬鹿………
モヤモヤした気持ちを心にしまったままに神林はデスクに顔を伏せた。
◆◆◆◆
「ちひろさん、電話終わりましたか?」
ベランダから戻った西島の側に碧が近付いてきた。
「お仕事ですか?すみません、僕のせいで」
少し不安そうな碧の表情。碧とは違い西島には役職がある。それなのに自分の為に休んでくれている事を悪いと思っていた。
「ちがうよ。神林と話してた」
「神林先生ですか?」
「うん、………碧の実家にさ引っ越したって挨拶いきたいから車もう少し貸してって」
「えっ、ぼ、ぼくの家に、えっ?ええっ!!」
碧は真っ赤になり慌てている。
「いや?」
「い、いやじゃないです!!!いいんですか?」
碧はめっちゃ首を振る。
そして、振り過ぎてクラリとくる。
「何やってんだ?大丈夫か?」
クラリとした碧を支える西島。
「へへっ、嬉しくて。あ、あの、本当に僕の家に?」
「うん。いつ大丈夫かな?」
「あ、あした!!明日いきましょう!!」
「そんな急にいいの?」
「大丈夫です!!おとうさ、あ、父とかに連絡しておきますね」
「じゃあ、お土産買わなきゃな」
「えっ!いいですよ!!」
「ダメだよ!碧の実家なんだし、ちゃんと挨拶しなくちゃ……後で買いに行こう」
「は、はい!」
返事を返した碧は、うわあ~なんか本当にお嫁にきたみたいだあ!!
なんて、心の中ではしゃいだ。
「なんや?家帰るとか?」
マグロを食べ終わった諭吉も側にきた。
「諭吉も連れていかなきゃな」
「いいんですか?毛がシートにつきますよ?」
「後で掃除すればいいし。諭吉を留守番させるのはかわいそうだろ?」
「わしはよかばい、マグロとクーラーあれば留守番くらいしてやるばい?2人でいちゃつけばよかろうもん?車ん中でも盛るとやろ?そしたらわしは、邪魔やろうし」
げっ!!諭吉!!と慌てたが碧には届いていない声なので、ちょっと安心。
ほんと、この猫は!!!
「諭吉も一緒だ!!」
ビシッ!と諭吉に言う西島であった。
◆◆◆◆
「神林くーん、お眠中?」
真後ろで声。
顔を上げて振り向くと佐々木がいた。
「あ、悪い、ちょっと寝てた。なに?もう休憩?」
「いや、ちがう、外にさ珍しい人いるぜ?」
「へっ?」
「此上さん」
「はい?」
神林は驚きの声をあげる。
なんで今頃?
って、いうか戻ってきてるのか?
「まだ、声かけてないんだけど、たぶん、此上さん。結構久しぶりだよね。いい感じのイケメンになってるぞ」
「どこに?」
「会社の前に車停めてる」
「ちょっといってくる!」
神林は小走りでその場所へ向かった。
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