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僕の一番はちひろさんなのです。3話

なんで、今頃? 前に会ったのはいつだっただろう?大学の時? 西島には会っているのだろうか? いや、もし会っているなら話に出るはず。 会社から出てキョロキョロと辺りを見回す。 どこだろう? 「神林くん?」 名前を呼ばれた。 その声は聞き覚えがあって、そして懐かしい声。 振り向くとそこに、懐かしい顔があった。 「此上さん」 「久しぶり」 そう行って此上は神林に微笑む。 優しく微笑む顔も前とあまり変わっていないように見える。 「なんか、すっかり大人の男性だね」 此上はそう言って懐かしそうに笑う。 「大人って……俺、もう直ぐ三十路ですよ?此上さんは変わらないですね」 「そっか、月日は経ってるね。こっちはもうオジサンだよ?君より10は上だから」 10歳上と聞いても彼はすごく若々しくて、オジサンという言葉があてはまらない。 「今日はどうして……って、いうか此上さん海外にいませんでしたっけ?」 「半年前から戻っているよ。………今日はね、近くまで来たから寄ったんだ。ちひろ、会社休んでるんだろ?そんなに酷いのかな?って」 ああ、やっぱり千尋の心配か。 相変わらずだなって思った。 「千尋は大丈夫ですよ。」 「そっか、それならいい」 「あの、千尋には会ってたりしますか?」 「会ってないよ。最後に会ったのは彼が留学した時だから」 「帰っているって言わないんですか?」 「どうして?」 「どうしてって……」 なんて言ったらいいだろう? 友達とかじゃないし、親族でもない。 西島と彼の関係は何だろう? 「顔もみたくないって言われてるからね」 「へ?どうして?」 「留学先でね、口論になって」 「そんなの何時もの事だったじゃないですか!!」 「まあ~、色々とね。でも、元気なら良かった。君にも会えたし………」 此上は神林の頭に手を置くとくしゃくしゃと撫でた。 あ………この感じ。 昔、こうやって頭を撫でられた事があった。 あの時の手は優しくて温かかった。 「じゃあ、」 手を振って去ろうとする此上の腕を咄嗟に掴んだ。 「あ、あの、連絡先交換しません?」 「えっ?」 「いいでしょ?俺とアナタは友人関係近いし」 此上は少し間を開けてクスっと笑った。 「いいよ」 そういって携帯の番号を教えてくれた。 「あの、酒とか飲みましょう!!」 「なんか、不思議だね。君のイメージは未成年だったのにお酒飲めるようになってる」 「こ、子供扱いしないでください!」 鼻息荒く反論したら、 「なんか、安心した……まだ、子供っぽい表情残ってて」 此上は手をヒラヒラと振ってその場から離れて行った。 彼の背中を見つめながら、……ちひろ、此上さんが戻ってるって知ったらどうするかな?と考えていた。 自分の考えている事が間違っていなかったら、たぶん、西島は学生時代あの人が好きだったはず。 そう思うから。 ◆◆◆◆◆ 「うわあ~、あの人が此上さんか!めっちゃイケメン!!ゆうちゃんの言う通りだね」 神林と話している此上を建物の陰から見つめる斉藤。 「なんだよ?好みなのかよ」 目をキラキラさせて斉藤がいうものだから、一緒にいる佐々木は不満顔。 「確かにイケメンだけど、俺はゆうちゃんがタイプ」 「お前~~~」 佐々木は斉藤を引き寄せようとするが、 「ここ会社!!しかも、受付が真後ろにあるでしょーが!!!」 と拒否られる。 「ゆうちゃんも挨拶したら良かったのに。知り合いなんでしょ?」 「いや、俺は多分、嫌われている。一度西島を食おうとしたから」 「あ……そっか。でも、恋人とかじゃなかったんでしょ?西島部長と此上さん」 「違うけど………まあ、雇い主の息子だから手を出したくても出せなかったのかもな」 「うお!!なんかそれ、BL漫画とかでありそう」 「ん?星夜、そんなの読んでんの?」 「あっ、たまに……」 えへへと笑う斉藤。 「なに?それってお勉強って事?」 「お勉強は実演でゆうちゃんが教えてくれんじゃん?意外と面白いんだよ?」 「お勉強また、教えてやろうか?」 佐々木は斉藤の腰に手を回す。 「だから!!ダメだって!!」 回された手を掴んで腰から離そうと悪戦苦闘していると、 「なにやってんだ?」 と神林が戻ってきた。 「あ………神林センセ、此上さんが来てるってゆうちゃんが言うからさ、見たくて」 「なんほどね。あ、この事は西島には言うなよ?」 「へ?どうしてですか?」 「何か訳ありっぽいし、それに西島はいま、碧ちゃんとloveloveなわけだろ?」 「や!!やっぱり何かあるんすね!!あの二人!!そこ詳しく」 斉藤は目を輝かせて神林を見る。 ◆◆◆◆◆ 場所を変えて、神林の診察室。 佐々木と斉藤に二人の間には何も無かったと説明をしたが、 「多分なんだけど、ちひろはさ、此上さんを好きだったと思うんだ」 神林は自分が思っているを口にした。 「あ、それは俺も思う。あと、此上さんも多分、好きだったと思うぞ?俺が西島に手を出そうとした時の憎悪はお前、殺す!!な感じだったもん」 佐々木も同じ事を言う。 「じゃあ、両思いじゃないですか!!」 2人の話を聞いた斉藤は結論に達する。 「だからだよ。ちひろには碧ちゃんがいるだろ?ここで、あの人が出てくると、動揺してしまうかも知れない」 「………だよね。碧がいるもんね。俺、碧が泣くの嫌だ。あんなに西島部長を一途に好きでさ、嬉しそうに俺に報告とかしてくるんだもん……分かった言わない」 「うん、お願いするよ。佐々木は言わなくても分かってるだろうけどね」 神林はチラリと佐々木を見る。 佐々木との付き合いは長い。 長いから、彼がいくらチャラくてもこういう時は空気を読む事を知っている。 「碧ちゃん居なかったら、言っちゃうけどね。西島がどうするか」 佐々木の言葉に、そう……もし、今は、恋人が居なかったらどうしただろうか? あの頃の彼は子供で。 でも、今は大人だ。 大人になった彼はどうしただろう? ズキンと胸が痛くなる。 彼が好きになる人はいつも、自分ではない。 好きな人が悩む姿ばかりを見て胸を痛めるしか出来ないのだ。 現にいまも、すごく………痛い。 ◆◆◆◆ 「夏姉ちゃん、明日、ちひろさんとそっち行くね」 碧は頃合いをみて夏に電話をしている。 父親の電話にもかけたのだが留守番電話に切り替わったので、夏の携帯にかけたのだ。 「マジで?お父さん達喜ぶよ」 「ちひろさんがね、引っ越した事をちゃんと報告したいって」 「わあ~、本当、西島さんってキチンとしてるのね、うちの馬鹿兄弟にも見習って貰いたいもんだわ」 「お土産持っていくね」 「お土産は碧ちゃんのラブラブ同棲生活の話でいいわよ。」 きゃう!!!恥ずかしい~~。 夏の言葉に碧は身体中が熱くなるが、夏になら話してもいいかな?って思う。 兄達には話せない。 「う、うん、夏姉ちゃんには色々話したい。じゃあ、明日!!」 碧はそう言って電話を切る。 ふう~、身体が熱いよ~。 「碧~、出掛けるぞ!」 西島の声がして、碧は「はーい!」と元気に返事をすると、彼がいる方へと走っていく。

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