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僕の一番はちひろさんなのです。 4話
◆◆◆◆◆
「碧、この格好変じゃないかな?」
次の日の早朝、碧の実家に出掛ける前に西島は何度も鏡で服装チェックをした。
もう、いっそ、スーツでも着ていくか?とも思ってしまう。
「凄くカッコいいです」
碧はウットリと西島を見てそう答える。
髪はセットされていないラフな髪型だから年齢よりも若く見える。
「本当か?」
「はい!!ちひろさんは何してもカッコいいです」
「ニッシーよ、碧に聞くとは間違ごうとるばい?何着ても、碧はカッコいいってしか言わんばい。なんせ、惚れてるからな」
諭吉が横入りしてきた。
うっ!!そうかも?だったら、この格好変かな?
悩んでしまう。
「ニッシーはようせんば、日の暮れるばい?何でん良かやっか、人はすぐ、みてくれば気にするやろ?中身やろうが!!」
諭吉に尻尾でパシンと叩かれた。
「ちひろさん、諭吉何って言ってるんですか?」
「………中身で勝負しろって」
確かに!!って思う。
「それなら大丈夫ですよ。ちひろさんは中身もカッコいいですから!」
ニコニコ微笑む碧。
「ありがとう碧」
西島は碧の頭を撫でると、ようやく、出発した。
◆◆◆◆
「公園のにゃんこのご飯どうしましょう?帰るの遅くなるでしょ?」
車で公園を通り過ぎた瞬間に碧は気にするように公園の方をみた。
「神林に頼んだよ」
「本当ですか?良かったです」
「神林も、猫好きなんだよ」
「星夜くんと佐々木部長も猫好きですよね。猫を好きな人に悪い人はいません!」
「佐々木は外せ!」
「えー!佐々木部長いい人ですよ。星夜くんの恋人ですし」
「アイツ等はお似合いのカップルだからな」
変態という共通点。
「はい。凄くお似合いですよね」
碧が言うお似合いは変態という意味ではなく、純粋に似合っているという意味。
本当に素直で可愛いなあって、思ってしまう。
◆◆◆◆◆
2時間ちょいの旅は碧にはドキドキの旅だ。
なんせ、西島と同じ住所になって次の日で、なんか………お嫁にいって直ぐの帰省っぽくてドキドキしていた。
「あ、」
碧は道路標識をみて声を上げる。
「矢印の方向に曲がると僕が前に住んでいた所です」
「幼稚園の時?」
「はい。そうです」
「意外と近かったんだな」
「そうですね、引っ越した時は小さかったから物凄く遠くに引っ越したって感じましたけど、今はこんなに近かったのかって思いますね」
「後で寄ろう」
「えっ?」
「懐かしいだろ?俺も碧が生まれた町みたいから」
「はい!!」
西島にそう言われて碧は嬉しそうに微笑む。
何かわかるといいな。
諭吉と話せるきっかけが掴めるといい。
西島はそう思いながら車を運転する。
「おかえり、碧ちゃーん」
車を停めると直ぐに夏が駆け寄ってきた。
「夏姉ちゃんただいま」
碧はドアを開けて夏に挨拶をする。
「西島さんもこんにちは。いらっしゃいませ」
夏は身体を屈め、車内を覗き込む。
「こんにちは。すみません、突然来てしまって」
西島はそう言って軽く会釈する。
「いえいえ、両親もみんな、待ってますよ。碧ちゃんと西島さんに食べさせたいって朝から祖母と母が料理してましたし」
「ほんと?何作ったの?」
碧はシートベルトを外すと車から降りる。
「にゃーん」
諭吉もピョンと助手席のドアから飛び降りた。
「諭吉もおかえり」
夏はしゃがむと諭吉の頭を撫でる。
西島が車から降りると、夏は碧に小声で、
「西島さん、相変わらずカッコイイね」
と耳打ち。
「うん」
西島を褒められ碧は嬉しそうに返事をする。
「おーい、碧~。西島さーん」
遠くから手を振る碧の父親の姿。
「あ、お父さん。ただいま!」
碧も手を振る。
「西島さん、いらっしゃい」
ニコニコ微笑みながら歩みよる父親。
「こんにちは。すみません、突然」
西島は深々と頭をさげる。
「おおっと、そんな仰々しい!いいんだって、いつ来ても……あっ、それならいらっしゃいじゃなくて、おかえりだな。おかえり碧、西島さん」
おかえり……。
そう言われるのはどれくらいぶりだろうか?
碧や諭吉に言われるとは違う。
碧の父親は西島を育ててくれた義父と年齢は変わらない。
まるで、昔に戻ったような気持ちになった。
「はい。ただいま」
懐かしくて、嬉しくて西島は微笑んで返事を返した。
なんでだろう………碧と碧の家族には素直になれる自分がいる。
◆◆◆◆◆
「おかえり、碧、西島さん」
玄関に入るといそいそと母親と祖母が出てきた。
おかえり………
やはり、心がふわふわと軽くなる。
挨拶をして部屋へと上がる。
まだ兄達は仕事のようで帰っていない。
いたら、かなりうるさいだろう。
「碧は迷惑かけてません?」
母親が心配そうに西島に声をかける。
「いえ、全然……あっ、あの、無事に引っ越し終わりまして、住所も変更させていただきました」
かしこまって挨拶する西島に、
「だからいいって、そんなかしこまらずに!!碧を押し付けちゃってすみません。」
父親はそう言ってわははと笑う。
「碧もちゃんと西島さんに迷惑かけずにイイコでいるんだぞ?」
碧の頭をグリグリ撫でる。
「もう!!!子供扱いしないで!!!僕だって子供じゃないし、ちゃんと料理とか掃除とかしてるもん!」
ホッペをぷっくりと膨らませて怒る姿はどうみても子供だった。
西島は………くそ!!可愛い!!とぷんすか怒る碧の姿を見て密かに悶ていた。
料理を出してもらい、食事を囲んでの家族団らん。
これも西島には懐かしかった。
子供時代は学校や友達の話を両親にしながら食事をしていた。
両親も西島の話をニコニコしながら聞いてくれていた。
もう、随分と過去のような気がしてくる。
「あの、………少しだけ碧の子供の頃の写真見たんですよ。」
他愛もない会話の中で西島は本題をぶち込む。
「ああ、ちょっと持っていってるもんね碧ちゃん。碧ちゃん可愛いでしょ?女の子の格好がすごーく似合って」
夏はそう言ってフフッと笑う。
「夏が妹欲しかったみたいで碧を女の子みたいな格好させてたのよね。服も夏のお下がりだし」
「ごめんね、夏姉ちゃん、僕男で」
母親の言葉に碧は夏に謝る。
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