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僕の一番はちひろさんなのです。5話
「やだなあ、碧ちゃん!碧ちゃんは男の子でいいんだよ。可愛い弟で良かったって思うよ。それに女の子の格好させてたのはどんな女の子よりも可愛かったんだもん」
夏は碧をギュッと抱きしめる。
「幼稚園の時とか碧はよく女の子に間違われてたわよね。名前も碧だし……ほら、なんて言ったっけ?仲良かった子?あ、直樹くんだ。あの子は碧をお嫁さんにするって言ってたわね」
母親は懐かしそうにしみじみ語る。
直樹くん!!名前が出てきた。西島はよしっ!!と、
「その直樹くんと碧、喧嘩したんですよね?碧が言ってました」
そう切り出した。
「えっ?………ああ!!あったわね。碧が泣きながら帰ってきて、幼稚園にもう行かないって」
母親は思い出したようにポンと手を叩く。
「あった!あった!!あの時は兄貴ーズがうるさかった!!碧を泣かしたやつは許さないって」
夏も思い出したようだ。
「喧嘩の原因って何ですか?」
「原因?………えっと、あっ!!ちーちゃん先生じゃなかった?」
母親は夏をみる。
夏は一瞬考えて、「あ、思い出した!碧がちーちゃん先生と結婚したいって言い出して、直樹くんが僕と結婚するって言ったじゃんって喧嘩になったんだよね?」
はい?って西島は固まった。
あれ?諭吉が喋ったって話して嘘つきって言われたんじゃ?
「あ、あの?諭吉が喋れるって言って嘘つきって言われたんじゃ?」
「諭吉?ああ、マグロうまい?直樹くんも喋ってるって喜んでたわね」
んん?あれあれ?
何これ?俺の勘違い?
「嘘つきの原因って先生ですか?」
「それもあるけど、あーたしか、ちーちゃん先生にも諭吉が話すって言ったんだけど、先生から嘘ついちゃダメって言われたみたいで、碧はそうとう凹んでたわねえ」
んん?
先生に言われた?
えっ?これって繋がった?
原因は直樹くんじゃなくて先生?
「その先生はいまは?」
「臨時じゃなかったっけ?私達は会った事ないんですよ。碧から話聞くだけで。写真もないし」
母親にそう言われた。
臨時かあ………じゃあ、通ってた幼稚園で聞けば分かるかも!!
西島はさりげなく、碧が通っていた幼稚園の場所を聞き出した。
理由がきちんとわかって、向き合えばもしかしたら、また諭吉と碧は話せるかも知れない。
自分が出来る事は全部やってあげたい。
碧はそれだけ大事な存在なのだ。
「碧!!!!」
突然の叫び声とドタドタと煩い足音で兄達が戻ってきたので、話はそこで終わった。
帰りに寄ってみよう……きっと、何か分かるはず。
碧の兄達も混ざり楽しい家族団らんを西島も味わった。
◆◆◆◆◆
「碧~また来いよおおお」
帰り間際長男にガッシリと抱きしめるられて、帰るのを惜しまれた。
散々、泊まればいいのに!!と皆に言われたがまた、来るからといいくるめたのだった。
暖かい家庭は居心地がいい。
車を走らせ、西島は次の目的地へと向かう。
「何かすみません。兄達がうるさくて」
食事の間中、長男は碧にかまい、ほかの兄らは西島に構っていた。
「ううん、楽しかったよ。また、いこーな。今度は泊まりで」
碧の頭をクシャクシャと撫でる。
「はい!!」
西島の表情は優しくて、その言葉に嘘はないと分かるので、碧はホッとして、元気に返事を返した。
「碧、ちーちゃん先生覚えているか?」
母親が言った名前。
碧は少し考えて、
「うん………少しだけ。先生に諭吉が喋れるって言ったのは覚えていませんけど」
「どんな先生だったんだ?美人?」
「凄く優しくて、かっこ良かったです」
「は?かっこ良かった?」
「はい。ちーちゃん先生は男の先生です」
「はい~~~??」
西島の声は裏返ってしまった。
「母の話でちょっと思い出したんです。ちーちゃん先生は背が高くて、かっこいい先生でした。なんか、ちひろさんに似てます」
碧は恥ずかしそうに微笑む。
俺に似てる?
んっ?って事はそのちーちゃん先生に似てるから俺を好きになったとか?
そう考えてしまったらジェラシーがドバーッと噴き出してきた。
初恋の人に似てる人を好きなるとか言うじゃないか?
くそ!!じゃあ、そのちーちゃん先生が初恋かあ!!
あああ!!そいつ、会ったらぶっとばす!!
そんな理不尽な事を考える西島。
「ちひろさん、僕がいってた幼稚園いくんですか?」
「い、いくよ?」
くっ!!もし、そのちーちゃん先生が臨時から本雇で幼稚園にいたら?
初恋の相手と再会かよおおおお!!!
なんかモヤモヤする。
いくの止めようかな?なんてちょっぴり考えてしまったが、諭吉と話せるチャンスがあるなら、それくらい我慢する!!
西島は胸のモヤモヤを吹き飛ばすように高速を飛ばすのであった。
◆◆◆◆◆
「わあ!!懐かしいですう」
幼稚園の直ぐ側まで来たら碧は懐かしそうに車の窓を開けた。
「ああ、懐かしか匂いばい」
諭吉も鼻をヒクヒクさせ、外の匂いをかぐ。
「幼稚園の近くに直樹くんの家あったんですよ。まだ、住んでるかな?」
碧はキョロキョロと周りをみている。
そして、幼稚園の直ぐ近くに車を停めた。
「凄い、凄い!!懐かしいです」
車を降りた碧はテンションが上がったようだ。
「知ってる先生まだいるかな?」
幼稚園の門に手をかけて中を覗く。
「わあ、凄いです。門が小さい!!こんなに小さかったかなあ?」
碧は西島に視線を向ける。
西島は周りをキョロキョロしている。誰か探してるのかな?なんて思った。
「ちひろさん?どうしました?」
「えっ?あ、いや………なにか、あれ?ここ、知ってるんだよね俺」
西島は幼稚園が近づくにつれ、懐かしいような感覚を覚えていた。
ああ!!ここ、知ってるって!!
そして、
「あれ?ちひろくん?」
と声がした。
幼稚園の中から年配の女性が出てきた。
西島はその人をみて、あっ!!と思い出した。
「ちひろくんよねえ?わあ、凄く格好良くなって」
女性が直ぐ側までくると、碧が、
「よしこ先生!」
と名前を呼んだ。
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