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僕の一番はちひろさんなのです。 6話

よしこ先生………そうだ!この人はよしこ先生だ。 碧が彼女の名前を呼んだので、よしこ先生は碧をみて、 「もしかして、佐藤碧くん?」 と碧の名前を呼んだ。 「はい!そうです!!」 「まあ~、碧くんも凄く大きくなって………って、どうしてアナタ達一緒なの?」 よしこ先生は交互に西島と碧をみる。 「よしこ先生、ちひろさんを知ってるんですか?」 碧は不思議そうにそう聞いた。 「知ってるも何も、碧くんも知ってるでしょ?1番懐いてたのに。ちーちゃん先生って言って」 その言葉に碧と西島は固まった。 同じくらい固まった後に、 「ええっ!!!!!」 と当時に叫んだのであった。 「やっと繋がったな」 諭吉はパシンと西島の足を尻尾で叩いた。 ◆◆◆◆ まだ、信じられなかった。 ちーちゃん先生が自分だと。 碧も大好きなちーちゃん先生が西島だったとかなり驚いている。 よしこ先生にお茶に呼ばれ、職員室に仲良く並んで座る。 「あった、あった!これ」 よしこ先生はアルバムを手に戻ってきた。 アルバムをひらくと、まだ、15歳の自分と周りに園児がいる写真が貼られていた。 碧はその写真をみて、「ちーちゃん先生だあ」と見つめた後に西島をみた。 面影がある。 西島も自分のシャツの裾を掴み、横にいる女の子の格好をした碧は見覚えがあった。 碧が持っているアルバムの中にいる小さな碧。 そして、少しづつ思い出してきた。 「あいちゃん………って呼ばれてなかった?」 西島が思い出した事を言うと、 「直樹君でしょ?碧って発音できなかったのよ。だからあいちゃん。そうね、ちひろくんはその頃、碧くんを女の子って思ってたもんね。否定しなかった私も悪いけど」 よしこ先生は懐かしそうにそう言った。 「でも、面白いわね。大人になって再会しちゃったのね。」 西島はだいたいの説明をよしこ先生にしていた。 「でも、どうして、ちひろさん、幼稚園にいたんですか?」 「俺が、家出ばかりするからさ、暫くここの近くの別荘に居たんだよ。世話係の人と一緒に。で、よしこ先生と世話係の人は親戚なんだよ」 「毎日暇そうだから、子供の相手してってお願いしてたの」 そうだ………ほんの少しの間、ここで子供達と遊んでいた。 そして、…………あっ!!! 西島は思い出した。 いつも、碧がくっついてくるから直樹がうざいくらいに邪魔しにきて、……小さい碧がウチの猫話すんだよ。先生にだけ教えてあげるって言われたんだ。 でも、猫はしゃべらないから嘘ついちゃダメだって言ったんだ。 そうだ………言ったのは俺だ。 碧を傷つけたのは俺………… あっ!!!!くそ!!! 西島は思いっきり机に自分の頭をガツンとぶつけた。 その音は大きくて碧とよしこ先生を驚かせた。 「ちょっ、ちひろくん!!大丈夫?」 「ちひろさん!!大丈夫ですかあ!!」 西島は机に顔を伏せたまま。 「冷やすもの持ってくるから、碧くん、ちひろくんをみてて」 よしこ先生は慌てて手当するモノを取りにいった。 「ちひろさん大丈夫ですか?どうしたんですか?」 オロオロ碧。 「碧………ごめん。俺のせいだ」 「えっ?」 「諭吉と話せなくなったのは……俺が嘘つきって言ったから………ごめん、碧。」 どうしよう。謝っても……許されない。 傷つけたのは自分。 諭吉と話せなくしたのは自分なのだ。 ◆◆◆◆ 「はい!今日から少しの間一緒に遊んでくれるお兄さんを紹介します!」 15歳の西島はよしこ先生に紹介され、しぶしぶ園児の前に立った。 「みんな仲良くしてね。西島千尋君です」 「こんにちは」 ペコリと挨拶すると、園児達は、 「こんにちはー」 と元気に返事をしてくれた。 小さな幼稚園には女性の先生が4人だけ。 男がいない為か西島は一気に園児達の人気者になった。 素人だから、雑用係で基本は園児と遊ぶ事。 ほんの1日で、「ちーちゃん先生」と呼ばれた。 「ちーちゃん先生、これあげる、四つ葉のクローバー」 髪をツインテールにして色白で目が大きい女の子が側にきた。 「ありがとう」 と受け取ると、 「あいちゃん、ぼくのは?」 と男の子が直ぐに走ってきた。 そして、西島をキッと睨む。 それで、ああ、この子はこのあいちゃんが好きなんだなって分かった。 あいちゃんは幼稚園にいるどの女の子よりも可愛くて、西島も可愛い子だなって思った。 それが碧。 それから毎日、「ちーちゃん先生」と懐いてきた。 素直で可愛くて、砂糖菓子みたいな碧に西島も癒やされた。 でも、たまに不思議な事を言う子だった。 「あのにゃんこね、お母さんとはぐれたんだって」 野良猫をゆびさして、そう言った。 「なんで知ってるの?」 「諭吉にきいたの」 「諭吉?お友達かな?」 「にゃんこだよ。諭吉はにゃんこ」 「猫?猫にきいたの?」 「うん、あのね、ないしょだよ。ちーちゃん先生にだけおしえてあげる。諭吉はねしゃべれるんだよ」 はい?と思った。 あ、子供特有の妄想ってやつか。 自分も子供の頃、色々と妄想をした。 「へえ~すごいね」 その場を合わせてあげた。 すると、碧はニコッーと嬉しそうに笑って。 「いっぱいお話するんだよ」 「へえ~、すごいね」 ただ、子供の夢を壊さないようにと空返事を返していた。 「あいちゃん、また、そいつと!!!」 直樹が走ってきて、西島に体当たりをしてきた。 子供は手加減を知らないから、意外というか、かなり痛い。 「ちーちゃん先生になにするの!なおきくんのばか!!らんぼうもの!!あいちゃん、そんな子キライ!」 碧は怒って西島を庇うように両手を広げて直樹を通せんぼした。 「なにだよ、ぼくと、けっこんするんだろ?」 「しないよ?なおきくん、らんぼうものだもん。ちーちゃん先生がいい!!ちーちゃん先生やさしいもん。諭吉が話すっていっても驚かなかったもん」 「ぼくだって、諭吉が話すのしってるよ。マグロうまいって言うじゃん!僕と結婚するってゆった!!あいちゃんのうそつき!!」 あ、しゃべるってそういう事かあ? 西島は子供は可愛いなって思いながら、碧の頭を撫でて、 「僕は大丈夫だよ?喧嘩しちゃダメ」 と言った。 「あー!!あいちゃんにさわるなよお!」 「べーだ、なおきくん、きらい!」 碧はあっかんべーをして、ソッポをむく。 すると、直樹が泣きそうになったから、 「仲直りして。結婚するんだろ?」 と碧にいった。 「しないよ!ちーちゃん先生とするもん!」 えー、困ったなあ。ロリコンじゃないしなあ~。 「ぼくはできないよ?もうお家に帰るから」 「お家?遠いの?」 「うん、遠い…遠いから来れないでしょ?お父さんとお母さんと諭吉と離れちゃうよ?いいの?」 「諭吉つれてくもん」 「諭吉は来れないよ」 「やだ!いっしょにいく!」 「だーめ、なおきくんと諭吉と仲良く遊んでね」 きっと、忘れるだろう。小さいのだから。

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