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僕の一番はちひろさんなのです。7話

ここに来てほんの数日足らずだった。 たった、その短い時間に結婚するって言っちゃうのは子供ならでは。 「諭吉がね、諭吉にちーちゃん先生を好きって言ったら応援するってゆったもん!」 「あのね、あいちゃん、猫はそんな事言わないよ?」 西島は碧の視線に合わせるようにしゃがむとそう言った。 だって、猫がしゃべるなんて思ってなかった。 いまなら、わかる!!アイツなら言う!! 「言ったもん!!ほんと、だもん!!諭吉はしゃべるもん」 必死に涙を溜めて言う碧の頭を撫でると、 「猫はしゃべらないよ。嘘ついちゃダメだよ」 そう言ってしまった。 碧は大きな瞳からポロポロと涙をこぼして、 「ゆったもんんんん!!」 と大泣きしてしまった。 西島は慌てて碧を抱き上げよしこ先生の元へと連れて行った。 猫はしゃべらないよ。嘘ついちゃダメ。 …………ああ、言ったのは俺だ。 その次の日、西島は家へと戻った。 だから、あの後、碧に会う事もなく、そんな事があった事さえ忘れてしまっていたのだ。 まさか、こんな風に傷つけていたなんて知らなかった。 ごめん、碧……… ごめん、諭吉。 「ち、ちひろさん、大丈夫ですか?」 碧の手が肩に乗せられた。 あの小さな手を思い出す。 小さくて、西島の手のひらの中にすっぽりと入っていた碧の手は15歳の自分と同じくらいの大きさになっている。 「ごめん碧………俺のせいだ。俺が嘘つきって言ったから……凄く傷つけた」 西島は顔をあげられなかった。 どう謝ればいいかわからない。 いい大人なのに、会社で失敗した時はきちんと、謝罪できるのに、こんな時に限ってどう言っていいのかわからない。 「ちひろさん、顔を上げてください」 碧に言われ西島は顔をあげた。 「おでこ赤いですよ?痛いですか?」 少し赤くなった額に触れる。 「痛くないよ………碧の方がもっと痛かった……ごめん。諭吉もごめん………」 西島は凄くしょんぼりとしていて、いつも堂々と他の役員達とやり取りをしてカッコイイのに、碧の目の前の西島は叱られた子供みたいにしょんぼりとしている。 ………どうしよう。ちひろさんが可愛い!!! 凄く可愛いんですけどおおお!!! 初めて見る表情に碧は悶ていた。 「ちひろさん、僕は怒っていませんし、それに……ちひろさんがちーちゃん先生って分かって凄く嬉しいんですよ?」 碧の言葉でしょんぼりとしていた西島の表情がキョトンとした顔になった。 「凄くないですか?大好きなちーちゃん先生と恋人同士なんですよ?一緒に住んでるんですよ?これって凄い事ですよね?僕は凄くすごーく嬉しいです」 碧はそう言ってふんわりと笑った。 まるで花が咲くようにふんわりと……。 「ちーちゃん先生と結婚するって僕言ってたんですよね?へへ、夢叶えたのと同じですよね?」 「碧………」 なんでいつも……この子はこんなに心を元気にしてくれるのだろうか? 碧が笑うだけで幸せな気持ちになる。 胸がポカポカと暖かくなって。元気になる。 「ちひろさんは僕の1番なんですよ。小さい時からずっと………ちひろさんだけです」 「碧……ありがとう」 西島は碧を抱き寄せた。 ギュッと力強く抱きしめる。 「ちひろさん、……ここ、ここ、幼稚園です!!よしこ先生きますよ?」 慌てる碧に、 「いいよ、見られても」 力を込める。 「碧………ありがとう。好きだよ」 耳元で呟く。 「ぼくも………僕も好きです。ずっとずっーと好きでした。今はもっと好きです」 碧も両手を西島の背中に回す。 こんなに………誰かを好きになるなんて思っていなかった。 こんなに、愛しい人に出会うなんて思っていなかった。 ◆◆◆◆◆ うーん、どうしよう。入るタイミングがわからない。 よしこ先生は入り口で救急箱を持って悩んでいた。 邪魔するなんて出来ないし…… 悩むよしこ先生の足元に諭吉が擦り寄ってきた。 「あら、ねこちゃん。」 よしこ先生は大きめのハンカチにおでこを冷やす為の道具を包んで諭吉の首に巻いた。 「邪魔したくないから届けてね」 そう言って諭吉の頭を撫でた。 うふふ、いい目の保養になったわ! よしこ先生は足取りも軽くその場を去った。

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