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僕の一番はちひろさんなのです。8話

◆◆◆◆ 「また、遊びに来てね」 車に乗りこんだ二人によしこ先生は手をふる。 「はい。また、必ずきます」 笑顔をみせる碧。 「ちひろくんもね………あ、そうだ、コレ」 よしこ先生は西島に写真を渡す。 受け取って見ると、小さな碧と一緒に写る西島の少年時代の写真。 「ありがとうございます」 西島はニコッと微笑む。 「………ちひろくん、良い顔するようになったわね。ここに居た頃は眉間にシワ寄せちゃって……大人に気を使う子供らしくない子供だったのに。そんな風に笑えるのね」 よしこ先生は良かったわ。と笑う。 「そんな酷かったですか?」 「うふふ、そうね。世界中の不幸せを全部背負っているって顔してたかな?」 「何ですか?ソレは」 クスクスと笑う西島。 「ずっと、心配してたけど、うん、もう大丈夫ね。そんないい顔して笑うんだもの」 よしこ先生は笑って二人に手を振った。 ◆◆◆◆ 「よしこ先生って全然変わってないですね」 碧はよしこ先生が西島へ渡した写真を見ている。 そこにはよしこ先生も写っていた。 「そうだね。俺と碧はこんなにも変わったのに」 「ちひろさんは凄く格好良くなってますよ」 「碧だって、凄く可愛い」 2人褒めあって、そして、微笑み合う。 「あ~、イチャついてるとこ悪いばってん、ワシ、ウンコしたかばい」 諭吉が後ろの座席からトイレアピール。 「は?まじ?」 「えっ?何ですか?」 「諭吉がトイレって」 「本当ですか?じゃあ、どこかで停めてください」 西島は拓けた広場を見つけ車を停めた。 「諭吉おいで」 碧は諭吉を抱くと車を降りた。 キョロキョロとトイレを出来る場所を探し、草むらをみつけ、そのに諭吉を連れていく。 諭吉はクンクン匂いを嗅ぎなら草むらへと入っていく。 この辺りの風景にも見覚えあった。 よく、直樹くんと遊び回ってた場所。 西島が車を停めた横を一台の自転車が走りぬける。 西島は後ろから自転車が来ている事を伝えようと、 「碧、後ろ自転車来てるから」 声をかけた。 「はーい」 と返事をした碧が振り向いた瞬間、自転車に乗っていた男性と目が合った。 何か知ってるような懐かしい感じがした。 トイレを済ませた諭吉がピョンと草むらから飛び出してきたから、碧は思わず、 「諭吉、危ないよ!」 と諭吉に声をかけた。 自転車で横を通り抜けようとした男性がブレーキをかけて止まると、碧の方を振り向いた。 碧はキョトンとして、その男性を見つめる。 「碧?」 その男性は碧の名前を呼ぶ。 「えっ?」 とキョトンとすると、 「碧だよな?……俺だよ、直樹!!」 男性は自転車から降りて、碧の方へ近づいてきた。 「直樹くん?」 碧はマジマジとその男性をみる。 ………確かに見覚えがある顔立ち。 あ、そうだ……直樹くんだ。 「碧………すげえ、なんで?こっち戻ってきたのか?」 嬉しそうに側に来た彼の笑顔に見覚えがある。 ああ!!そうだ!直樹くんだ。 小さい頃と変わっていない笑顔。 「ううん、よしこ先生に会いに来ただけ……えっ?直樹くんはずっとこっち?」 凄く凄く懐かしい感情が込み上げてくる。 「うん、大学通ってて……碧は今、どこ住んでるんだ?碧も大学?」 「僕は福岡で就職してるよ」 「えー、碧がもう社会人?すげーーー!!!」 変な驚き方をする直樹。自分だって、碧と同じ年齢なのに。 「僕と直樹くんは同じ年ですよ?そんな所変わってないですね」 碧はニコッと微笑む。 「………っ、碧の方が変わってないよ。なんか、凄く可愛いっていうか」 「えっ?そうですか?けっこう背も伸びたんですよ?って言っても直樹くんの方が背が高いですけどね。昔は同じくらいの身長だったのに」 直樹はニコッと微笑む碧を見つめる。 ああ!!!!なんだよ、この可愛い生き物は!!! 天使か!!天使なのか? 「碧、そのひとは?」 西島が近付いてきた。 「ちひろさん、直樹くんですよ!」 「は?直樹?」 西島は直樹に視線をむける。 「直樹くん、ちーちゃん先生ですよ、覚えてますか?」 碧に紹介され、暫しの沈黙の後に直樹の、 「えーーー!!!!」 雄叫びが周りに響いた。 本当に偶然だった………家に帰る途中になんだか凄く可愛い子がいた。 懐かしくて、どこかで会った事があるような感覚。 碧とその子は呼ばれた。 碧………凄く懐かしくて、忘れられなかった名前。 その子が飛び出してきた猫の名前を呼んだ。 諭吉……… 諭吉は小さい頃大好きだった子が飼ってた猫の名前。 まさか……… 思い切って声をかけると、やはりそうだった。 初恋の相手が大人になってそこにいた。

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