220 / 526

僕はちひろさんの1番ですか?

◆◆◆◆ 車内でずっとニコニコ笑顔の碧。 そんなに直樹に会えたのが嬉しかったのかと、心ざわつく西島。 幼なじみだし、ずっと会えなかったから嬉しいのは仕方ないけれど、でも、そんなに嬉しそうな顔されたら、心狭いと言われてもヤキモチ妬いてしまう。 「碧、ニコニコしてるな。直樹に会えたのがそんなに嬉しかったのか?」 ちょっと探りを入れる西島。 「えっ?はい、嬉しかったです。久し振りに会えました!!背も高くなってましたけど、笑い方とかは昔のままでした」 ニコッと微笑む碧。 あ~~、くそ!!他の男の事言いながらそんな可愛い顔すんなよ、碧!! そんな可愛い顔は俺だけに見せたらいいのに。 「……でも、1番嬉しかったのはちひろさんがちーちゃん先生だったって事と直樹くんに僕が恋人だって言ってくれた事です。」 ふんわりと笑う碧。 照れくさそうに……可愛く。 あおいーーーー!!! 名前を叫んでその場に押し倒して盛りたかったけれど我慢!!なんせ、運転中。 嬉しい、嬉しい、ものすごーく嬉しい。 「ニッシー鼻の下伸びとるばい?」 諭吉の突っ込みは今は気にならない。 「ありがとうございますちひろさん、僕を恋人だって言ってくれて」 「あ、当たり前だろ?碧は俺の恋人なんだから!」 お礼を改めて言われたら照れてしまう。 「僕、夢だったんです。好きな人から、自分を恋人だって友達に紹介されちゃうの」 えへへと笑う碧。 あーー!!くそくそ!!可愛い!! そんなに喜ぶならいくらでも言ってやる!! 「今日は凄く嬉しい日でした。ありがとうございます、ちひろさん」 ペコリと頭を下げる碧。 「うん、俺も……俺も行って良かったよ。碧と小さい頃から知り合ってたってわかったし。……でも、碧と諭吉が会話出来なくなった原因は俺だけど」 申し訳なさそうな西島。 救ってやりたいとか思いながら原因は自分だった。 これから先どう償おう? 「僕はちひろさんと諭吉が話せるからいいんです。通訳してくれるんでしょ?」 「も、もちろん!」 「仕方ないですよ、猫が話すとか普通信じませんから」 ふふっと、笑ってみせる碧が健気だ。 「諭吉もごめんな」 西島は碧の膝の上に居る諭吉に謝った。 「別に気にせんで良か!ワシはな、ニッシーが碧が好きなちーちゃん先生って知っとたぞ?」 「はい?」 諭吉の告白に西島はつい、声が裏返ってしまった。 「はっ?マジで?」 驚く西島に、碧が不思議そうな顔で、 「どうしたんですか?諭吉何って言ってるんですか?」 「俺がちーちゃん先生って知ってたって」 「えっ?ええっ??嘘!!いつから?いつからなの諭吉?」 碧は諭吉の身体を持ち上げて顔を見合わせる。 「こっちに来てニッシーがワシば迎えに来たやろ?そん時に臭いでなあ、あれ?なんか知っとおぞ?ってなってな。ワシ、ニッシーば何度か見に行った事あるしな。」 「はあ?マジで?」 「えっ?諭吉、何言ってるんですか?」 「俺が諭吉と初めて会った時に臭いで分かったって、昔の俺を見に来てたって」 「あ、そう言えば諭吉連れて幼稚園行った事ありました!!それに諭吉と母が幼稚園まで迎えに来てくれてましたし」 碧は思い出したようにそう言った。 「えっ?そうなのか?」 西島は少し考えて、猫を連れて子供を迎えにきていた母親を思い出した。 連れていた猫が人懐っこくて、撫でた事もあった。 「毎日、ちーちゃん先生の話ばしよったけんな」 「碧、毎日、俺の話してた?諭吉が言ってる」 「は、はい!!幼稚園での出来事をいつも話してて……はい。そうです、僕、諭吉とたくさん、ちひろさんの話してたんです。思い出しました」 「だから、お前、俺に繋がったなって言ったのか?」 「そうばい。碧の初恋がニッシーって知っとたけん、協力したとさ」 諭吉の言葉で色んな事がひとつに繋がったように思えた。 「諭吉、俺が碧の初恋の人だって知ってたから協力してたんだって」 「ほ、ほんと?諭吉?ありがとう」 碧はギュッーと諭吉を抱きしめる。 諭吉が苦しそうにぐえっ、となっている。 「なんだよ~、早く言えよ!!」 猫に踊らされていたような感じがするけれど、結果オーライなのでその事は口にしない。 「頭の中で僕も少しづつ、繋がってきました。記憶が混乱してたみたいで、直樹くんに意地悪されたんじゃなくて、失恋したから……失恋したと思ったから僕は幼稚園行きたくなかったし、忘れてたんです」 「えっ?」 「僕、ちーちゃん先生にふられたと思ったんです。結婚したいって言ったけど、ちーちゃん先生はここから居なくなるし、出来ないって……諭吉が喋る事信じて貰えなかった事も、ショックだったと思うんですけど、それよりも、ちーちゃん先生が居なくなった事がショックだったんです」 「碧………」 「だから、やっぱり、凄く嬉しい。ちーちゃん先生と恋人になれて」 碧はそう言って泣き出した。 ううっ、抱きしめたい!! でも、運転中。 そんな西島の視線の先に見えたものはある建物。 落ち着くまで休もう。 急ぐ旅じゃないし。 「碧、少し休もう……今日中に帰らなきゃいけないわけではないし。」 西島は車線変更を行い、見えた建物へと向かう。 「………ニッシー、さすがムッツリばい」 その建物をみた諭吉はジトっと西島を見る。 派手な看板にお城のような建物。 「ば、ちがう!!やましい気持ちがあるわけじゃない!!」 必死に言い訳する度に虚しくなる西島が碧を連れてきた場所はラブホテル。 泣いていた碧もそのホテルをみて、涙が引っ込んだようでキョロキョロしている。 「ここって、もしかして、ラブホテルとかいうやつですか?僕、初めてきました!!」 目がキラキラしている。 泣き止ませる事には成功したが諭吉からのムッツリ視線が痛い。 「中、みたいです!!早く入りましょう!!」 碧は無邪気な笑顔。 ラブホテルには似使わない無邪気さ。 いかがわしい場所にこの碧を? 「泡風呂とか出来るんですよね?僕、入りたいです!!星夜くんが泡風呂良いって言ってました」 碧はそう言って諭吉を抱き、車を降りてしまった。 碧が喜んでいるから、だから入るんだ!! 西島は自分へ言い訳しながらホテルの部屋へと入った。 そこは車で入った時点からチェックインと見なされるシステムのようで、フロントとは電話で話すタイプで顔を合わせる事はない。 ドアはシンプルで、中へ入るとラブホテル特有の甘い芳香剤の香りがしていた。 田舎のわりには結構立派ないい感じの部屋で綺麗な雰囲気だ。

ともだちにシェアしよう!